千曲万来余話その685「ブルックナー9番を丑三つ時に再生すると・・・」

 9/4はJosef anton ブルックナー1824.9/4アンスフェルデン生~1896.10/11ウィーン没の生誕200年に当たる。家系としては教育者のもとに弟妹は10人とも。10歳には礼拝でオルガンを弾いていた。和声の基本やオルガン奏法はこの頃からの学習。1715年に完成したザンクト・フロリアン修道院とは故郷の在任中にも訪問していて1845年9/25に正式の助教に任命されそのつながりは一生の結びつきとなる。
 第1交響曲は1866年7月リンツにて完成。1894年11月第3楽章アダージォまで完成しつつ未完のニ短調交響曲は1903年2/11ウィーンにてレーヴェ指揮により1932年ミュンヘンにて原典版が初演されている。ハース、ノヴァーク、シェンツェラー、さらにコールスなど原典版に改訂が加えられて様々である。ということは原典版といわれるもハース原典版のように微妙な楽譜採用といえる。ところが、最近の改訂版はティンパニなどの加筆の他に、第1と第2Vnの旋律線の改定にまで発展している。どういうことかというと、弦楽配置の問題と云えるのである。
 ロヴロ フォン マタチッチ1899.2/14スーシャク郡生れ当時オーストリア帝国現在クロアチア~1985.1/4クロアチア没は1983.3/12、13ウィーンで9番ライヴ録音を残している。アマデオ盤、最後期のアナログ録音である。彼はウィーン少年合唱団で活動しその経歴が物語るように歌に溢れた演奏を残している。アンサンブルであるのだが、呼吸が整っていてフレーズ感が歌心に満ちているということである。特筆すべきは、音楽の演奏スタイルはテンポの緩急変化を強調することなく現代的なところにある。
 9/4の丑三つ時午前2時半あたりで明りを消してスピーカーに集中する。印象的なのは、ピツィカートの弦楽演奏が実に雄弁になる。冒頭で左スピーカーにはヴァイオリンそして右スピーカーにはアルト、チェロ、コントラバスが量感を与える。たしかに、高音域は刻みでも、コントラバスはアルコ、弓弾きのように印象的である。ブラスアンサンブルは悠然と姿を現し、木管楽器は音の広がり感が格別である。多分、アナログ録音の最良録音の一つといえるに違いない。
 さて、ステレオ録音では左右感の実現のために、Vnの第1と第2を並べて右上手側には低音楽器を配置するのだが、現在の流行は、ヴァイオリン両翼配置である。つまり、ステレオタイプの弦楽配置は、下手側に向けて土台は上手という具合になる。この分かれ目は、指揮者の主体性と作曲者へのリスペクト尊重という選択なのである。何もマタチッチ、作曲者へのリスペクト否定論ではなくてこの時代の流行ファッションというまでである。
 アナログ録音の最良は、オーケストラ楽器演奏の息遣いの再生にある。ウィーン交響楽団は、ウィーンを本拠地とするフィルハーモニカーとは異なるシンフォニカーであり管弦楽を専門としてウィーンフィルが国立歌劇場で歌劇を毎晩の如く上演する団体とはメンバーを異にする。アンサンブルに対する評価で遜色は何もない。
 丑三つ時にレコード再生とは、とんでもない、とか思われる向きがある。何も轟音を再生するのではなく、低音量で鑑賞するまでである。最近は朝方、6~7時の再生に興味関心がある。電源がクリーンであり、静寂な中にレコード低音量再生は極楽である。ハンマー投げの投擲でリリースする瞬間は、地球が太陽に向かい朝方から昼間へと移行する位置関係にあるから、自転する引力の加わる最良の時間帯ともいえるからである。この感覚は、レコード愛好者で意外と認識共有することが、容易な指摘ではあるまいか、実際に感じることは、理解と異なり極楽の感覚なのである。
 マタチッチはブルックナー交響曲指揮を得意にしているのだが、彼こそ正にアナログ時代の巨匠であった・・・