千曲万来余話その678「シューベルトの「交響曲第9番グレイト」という謎・・・・・」
車の上に居るペットは何か?という謎々、それは漱石「吾輩は・・・」とくれば、ハハアなるほどね、という具合に落ち着く。シューベルトの8番は?というと未完成である。2楽章で完成していないこともない。8番未完成9番グレイトというこそ「昭和」の定番。ところが令和では、7番未完成8番グレイトとこう来る。未完成はh-mollロ短調でグレイトはC-durハ長調ということ不変であるからして数字というものが可変文字なのかもしれない。私の関心事は何より「未完成」第2楽章で第2ヴァイオリンの演奏する大柄な音楽である。あれは、ヴァイオリンダブルウイングの効果的な刻印だろう。両翼が羽ばたくという記念碑である。
シューベルト没後150年を記念して1978年にドイッチュ編作品目録改訂新版により大ハ長調は第8番と示された。シューベルト死の9か月前に完成し1838年3月21日メンデルスゾーン指揮ライプツィヒゲバントハウス演奏会、短縮版初演。永遠の青春の胚芽を含んでいるとはロベルト・シューマンの讃辞による。なお、LP録音の世界ではボールト、クレンペラー、ケンペ、ジェフリー・テイトらの録音は、実にヴァイオリン両翼配置によるものである。ここで盤友人なりの断わりを表明するに、2024年時点でのオーケストラ世界で流行しているVn-double WING 配置には故なきことにあらず、ピリオド楽器演奏時代の延長線上で作曲家時代の配置によるモダン楽器のオーケストラ配置という先祖返り現象なのである。ということは第1と第2のヴァイオリンを両翼展開するのは、新しい時代現象といえることなのであり、もはや、第1と第2ヴァイオリンを揃えている演奏は、時代遅れの象徴とされることだろう。
ヨゼフ・クリップス1902.4/8~1974.10/13指揮した1958年5月録音でロンドン交響楽団のステレオ録音によると、フィナーレ終楽章にクリップスならではの「遊び」が用意されていた。ウィーン生まれの彼ならではの施しで、他に類例はない。開始のファンファーレから前半が一段落して、ホルンやヴァイオリンがリズムを刻んでいるところ、つなぎの音楽で続いて開始の音楽が再現される前の所をなんと、グランドピアノが補強してリズムを刻んでいるのである。終楽章でグランドピアノを補強する先例は、幻想交響曲第5楽章で弔いの鐘の鳴らせるところをジョン・バルビローリやエルネスト・アンセルメのLP録音では確認される音楽である。
3/24に訃報が届けられた。マウリツィオ・ポリーニ1942.1/5ミラノ生まれ~2024.3/23ミラノ寂。彼を1978.4/5北海道厚生年金会館オール・ベートーヴェンプログラム25番27番29番というソナタ演奏を聴いた。当時イタリア元首相モロ氏が極左赤い旅団に誘拐された事件が発生、ピリピリした緊張感が彼の演奏から伝わり、ハンマークラヴィーアソナタでは、紅潮した彼の顔色は2階席で聴いていた盤友人にとって極めて印象的なイヴェントであることを刻印した。10歳で公開演奏会に出演し、18歳でショパン国際ピアノコンクール優勝を果たし1963年から68年まで沈黙、演奏活動をセーブした後にショパン作品集EMI録音により再開している。アルトゥール・ルーヴィンシュタインは、技術の上で他の誰よりも抜きんでているというコメントを発表し後年アルトゥール・ベネディッティ・ミケランジェリの講習会を受講するなどしてポリーニの未来は、大輪の花を咲かせる。2010年高松宮殿下記念世界文化賞を受賞、日本での活動も彼のキャリアに華々しい彩りを添えている。
彼の使用する楽器は、ほとんどスタインウエイであり、彼の音楽に密接した音色となっている。このことは、世界の主なコンサートホールに常設されるスタインウエイという音色の一つの要因と云えるのかもしれない・・・