千曲万来余話その670「夕べの歌、感謝と祈り・・・」

 8/7月曜日には北海道ツアー2023としてN響メンバーによるキタラホール公演、少人数でありながら運命の第1楽章が予定された。なんのことはない、盤友人にとっては389小節目をどのように料理してくれるものかという期待があった。コンサートリーダーは永峰高志、アレンジャーは、御法川雄矢。現時点では普通に全休止が有り、楽譜の上では502小節の可能性が高い。ところがである、リーダー永峰さんは果敢に、389小節目を音符演奏で満たしてくれた。
 よく音楽には「間」が大事であり、ということで音楽的ブレーキがいつもかけられていたものだ。ところが、123と124小節目には2小節ともに全休止が有り、ベートーヴェンはそこのところ、区別をつけているのである。406小節目から音楽が流れることに気が付くと、かの全休止が採用されると1小節ズレることになるのである。だから、124と501小節が繰り返されたとき、625という5の4乗の数字の確実性は意味を持つことになる。永峰さんはその考え方の延長線上にあってかの389小節目の全休止を否定するものであろう。
 盤友人にとり、ニキッシュ、山田耕筰、クレツキ、そしてプレヴィン編曲? になるヴァーカル版運命第1楽章、そして永峰さん演奏によるという5種類目の501小節版運命を体験することになる。永峰さん天晴れ すごい事ですね。
 演奏会場で買い求めたディスク、夕べの歌を手にして、さらに驚いたのは16トラック、サンサーンスのポコ・アダージォ、第3番交響曲ハ短調第1楽章後半の音楽である。2009年録音。パイプオルガンを伴い、パラディス、クライスラー、ラインベルガー、バッハ、シューベルト、ヘンデル、そしてサンサーンス、フォーレというラインナップ。盤友人は聴きとおして、16曲目にいたく驚いた。永峰さんは1980年以来NHK交響楽団のキャリアを重ねていて、ソリストとは一味違うメニューを企画立案している。
 カミーユ・サンサーンス1835~1921は1886年に初演された第3番で、オルガン付き交響曲を作曲している。このアイディアはチャイコフスキーがマンフレッド交響曲で1885年作曲採用していて、ほぼ同じころの趣向である。サンサーンスは第2楽章の後半にアルカデルト作曲のアヴェ・マリアを取り入れて、壮大なクライマックスを構築している。
 第1楽章の第2部は、パイプオルガンが加わり、しっとりした音楽、1957年録音のポウル・パレイ指揮デトロイト交響楽団でオルガン奏者はマルセル・デュプレ。これは、マーキュリー盤、日本では1000円盤でリリースされていて、大衆に受け入れられる先駆的レコード。もしかしたら、永峰さん耳にしていた音盤だとしても不思議ではない。フランツ・リストに捧げられた交響曲で、パイプオルガンもグランドピアノ4手連弾も採用されていて、ある意味、内容空虚、こけおどしとかこてんこてんにけなされそうな代物。ところが、実際の音楽会で、体験するとどはまり、しばらくの間、管弦打楽器の活躍、耳から離れない音楽なのである。
 その音楽のポコアダージォは、曲目の選択もさることながら、永峰さんと荻野由美子さんの演奏は、宗教的色彩と、音楽的な趣向を合体させた稀有な名演奏に仕上げられている。なにより、ヴァイオリン奏者とパイプオルガンのアンサンブルは極上、このコンパクトディスクの成功は、このプログラミングで約束された個性的作品といえる。
 美しい音楽に出会い、夏が終わると人生は、ひとつ深まるといわれるものなのだが、こういう経験を希望された方は、プレーヤーで再生されることをお薦めする。一服の清涼剤でありつつ、人生を深く味わう貴重な音楽演奏に感謝することしきりである…永峰高志さんのご活躍を念じつつ、前進禁止の青切符無念を苦味少々、まあなんくるないさー