千曲万来余話その647「ホルスト惑星、ボールト卿スケール感あふれる・・・」

 7/14は満月夜、札幌では雲間から拝むことができたスーパームーン。およそ38万km余りの距離で太古から少しずつ遠ざかりつつあるという。ウサギは円く長い耳は下を向いていた。盤友人は眼鏡のお世話になっていない。子どものころから星空を眺めては星の数を数えたり、北斗七星は見えにくい4番目の星に目を凝らしていたからかもしれない。平安時代の光が現在見えているという事実は浪漫ロマン、不思議な感覚になる。
 札幌はPMFパシフィック・ミュージック・フェスティバルが開催される。2022プレイベントとして教授陣による札幌の学生を対象として公開セミナーが企画されている。ヴァイオリンのライナー・キュッヘルRainer・Kuechl氏、クラリネットにアレクサンダー・バーダーAlexander・Badar(ベルリン・フィル)、トランペットにタマーシュ・ヴェレンツェイTamas・Velenczei(ベルリン・フィル)など、彼らはレナード・バーンスタインの遺志を受け継ぎ教育プログラムとして札幌コンサートホール「キタラ」を中心に演奏会(8/2サントリーホール)を展開する。オーディションを受けた各国の音楽大学生らが集う。
キュッヘル氏の指導は直截で作品23冬のソナタから24スプリング・ソナタへという音楽観、クレッシェンドの演奏法など、不動の姿勢で体幹を直立させて、ぐらつかせないのは、見た目だけではなく、ベートーヴェンに対する彼の感覚を伝えてくれる。バーダー氏はウェーバーのクラリネット協奏曲第1番で書かれたのは1811年という認識から指導を始めて、B氏交響曲7番の頃、ロマン派の前に当たる音楽、初演奏者の息子が60年後に書き加えている楽譜の検討を指導していた。トランペットのヴェレンスツェイ氏は、楽器の構えから両肘を開き気味にして呼吸のリザーブ意識やブリーズィングを指摘していた。こういう指導を公開セミナーで体験できることは、演奏者のためにだけではなく、鑑賞するヒントにさえなる。大変に貴重なイベントで、バーンスタインの業績といえる。
 グスターヴ・ホルスト1874.9/21グロスターシャー、チェルトナム生れ~1934.5/25ロンドン没。初めはグスターヴ・テオドーレ・フォン・ホルストといったが、第一次大戦中にVonを落としている。英国系でスェーデンの家系もある。東洋哲学サンスクリットにも関心を持ち、一人娘イモージェン・ホルスト1907.4/12リッチモンド生れは作曲家、ピアニスト、合唱指揮者、教育家として高名。1913年から作曲された組曲惑星、火星戦争の神、金星平和の神、水星翼を持った使いの神、木星快楽の神、土星老年の神、天王星魔術の神、海王星神秘の神、この7曲からなる。9番目の惑星である冥王星の発見は1930年だから、作曲されていない。初演指揮者はエードリアン・ボールト27歳1918年のことである。
 エードリアン・ボールト1889.4/8~1983.2/22は、2回SP録音、3回のLP録音を残している。ウィーン国立歌劇場管弦楽団(1959年ウエストミンスター録音)ニューフィルハーモニア(1966年EMI録音)、ロンドン・フィル(1978年EMI録音)ウィーンステレオ録音盤には古雅なおもむきがあり、ただ左チャンネルに第1と第2ヴァイオリンがあるのは何かもやっとしてしまう。しっかりと第2ヴァイオリンが右側に聴こえる録音は、音楽として新鮮フレッシュな感じがする。すなわち、ステレオ録音でヴァイオリンを左スピーカーにしてしまうのは、音楽的な破壊行為だろう。左右の対話というのは、ポリフォニー多声部音楽基本中の基本であり、中央にチェロとアルト、そしてオルガン脚鍵盤スゥエルとのユニゾン斉奏がある 老年の神土星は、あたかも、人生の深みを示唆しているが如きである。ボールト卿の指揮は気宇雄大、宇宙の神秘を体験させうる稀有な録音盤といえることだろう・・・