千曲万来余話その643「ストラヴィンスキー兵士の物語、自作指揮モノ録音・・・」
1918年というとストラヴィンスキー1882.6/18ペテルブルグ郊外~1971.4/6ニューヨーク没、第2期の創作期に当たる。第1期は3大バレエ火の鳥、ペトルーシュカ、春の祭典など、その後で、客観的な表現そして小編成の楽器による機械的な効果を実験する。マーラーは1909年に交響曲9番を完成していたし、ドビュッスィは1902年、歌劇ペレアスとメリザンドを初演していた。バルトーク1919年に、中国の不思議な役人組曲を作曲している。
プロコフィエフは、古典交響曲を1917年に完成しているが、エピソードとして、ピアノに頼らず作曲したという。これはベルリオーズ作曲になる幻想交響曲(1830年)に由来しているかもしれない。そのような中で、ストラヴィンスキーは7人編成による作曲を完成している。ヴァイオリン、コントラバス、トロンボーン、トランペット、そして打楽器、ファゴット、クラリネット。読まれ、演じられ、踊られるという副題されたこの作品の台本は、作曲者自身が見つけたロシア色の濃い民話、ニコラス1世統治下の徴兵が行われた時代の物語で、これにもとづいてラミューズと綿密な打ち合わせをしながら完成させている。
兵士の行進曲の序、休暇をもらって故郷に帰っていく。すっかりくたびれ果て、傷んだ足を引きずるようなシンコペーションのリズム、兵士は小川のせせらぎを見つけ、雑嚢からヴァイオリンを引っ張り出し、調子を合わせてから弾き始める。重音奏法が何かのシンボルのように聞こえてくる。どこからともなく現れた老人姿の悪魔、この楽器を手に入れようと策を弄する。しばらく途方にくれながら悪魔の交渉に応じていた兵士は、やっと悪魔に手渡し、代わりにうけとった着物を手にふたたび始めの行進曲に戻って田舎道を歩いていく。壊れかけたヴァイオリンと不思議な相場で交換した兵士は大儲けをし、呉服屋を開いて大金持ちになるのだが、彼は、その豊かさにうんざりし、ついに富を軽蔑して捨て去り、呪いから逃れることになる。ちりだらけになり、歩く兵士に戻りもう故郷目指す気持ちもどこへやら、目の前に宮殿が出現、威厳を装った王様の行進、その愛娘は食欲もなく、不眠症、口もきかない、この病を治したものには娘をやろうと王様のおふれ、兵士は宮殿の中で悪魔と再会、カードで賭けをして悪魔に勝ちヴァイオリンを取りもどしてから小さなコンサート、続いてタンゴ、ワルツ、ラグタイム。兵士が姫の枕もとでヴァイオリンを弾くとたちまち、難病はたちまちにして治り、兵士は、愛を得て二人は恍惚と抱擁、コラールが鳴り響く。
にわかに王子になった兵士はこの幸福に満足できず、一つの幸福こそ幸福の全てであり、二つの幸福は無いに等しいといった教訓めいた台詞や悪魔の呪いの言葉が聞こえてくる。兵士と姫は宮殿を抜け出し、新しい幸福の柵を無分別にも乗り越え、国境へあと一歩というところで兵士は破滅してしまう。あとには、意気揚々たる、しかしせせら笑うような悪魔の凱旋行進曲、人間の運命のはかなさを残しながら終わっていく。
作曲者自身の指揮は、そのテンポ感、そして設定と合奏の実演で極めて興味深い25分間程度の演奏となる。Vnアレクサンダー・シュナイダー、Cbジュリアス・レヴァイン、Tbエルヴィン・プライス、Tpロバート・ナーゲル、Pecアルフレッド・ハワード、Fgローレン・グリックマン、Clデイヴィド・オッペンハイマー。ML4946ナンバー1951年10月録音。
モノラル録音ということで、頭の中の舞台配置は、しも手にVnとCbで上手奥にパーカッションで中央にトランペット、その隣にトロンボーン、上手端にクラリネットとその内側にファゴットを配置する。タンゴやワルツで色物のパーカーッションは上手奥が相応しく広がりも出る・・・