千曲万来余話その642「バッハへの招待、テューレク女史は弾く・・・」

 祝日や休日を連続させると黄金週間ゴールデンウィークという。郊外へ出かけたり、映画館へ是非足運ばれることと期待されている。昭和の日に始まり憲法記念日やみどりの日、そして子どもの日とこうくると歴史に学びましょうという気配も募ることだろう。
 グランドピアノで世界4大メーカーといわれるブランドが有る。ベーゼンドルファー・ウィーン、スタインウエイ・ニューヨーク、ベヒシュタイン・ベルリン、そしてブリュトナー・ライプツィヒ。古くは「エラール」が1796年イギリス式アクション採用によるグランド製作に始まり、1807年プレイエル・パリでピアノ製造を開始、1808年エラール・イギリスでダブル・エスケイプメント・アクションという連打音の演奏可能が容易になっている。ちなみにドイツ式アクションでは手前にハンマーを跳ね上げる方式で、イギリス式アクションは張ってあるピアノ線の中央付近でハンマーが叩かれる方式になるスタインウエイ。ドイツ式はベーゼンドルファー独特の方式であってウイルヘルム・バックハウス、クリフォード・カーゾン、アニー・フィッシャー女史らが愛奏している。スタインウエイやベヒシュタイン、そしてブリュトナーはいみじくも、1853年創業開始の歴史となっている。
 レコードで聴くことのできる音色は、現代では多数派がスタインウエイ&サンズのニューヨークや、ハンブルグ製。ハインリヒ・エンゲルハルト・シュタインヴェイグを創業者とするスタインウエイなど、アルトゥール・ルービンシュタインやウラディミール・ホロヴィッツ(1904.10/1キーウ生れ1928年米国デビューしてトスカニーニの娘婿1986年モスクワ音楽院再訪~1989.11/5ニューヨーク没)らが使用している。
 イギリスEMIでALP1747番号になる音盤でロザリン・テューレク1914.12/14シカゴ生まれ~2003.7/17ニューヨーク没はバッハ小品集を録音している。このレコードを再生して気付くことは、その音色の雅やかさにある。低音域から高音域に至るまで滑らかでバランス良い音色、何と香やしやかな気品あふれるピアノの音色なのであろうか? ピアノという楽器に愛着を覚えるとき、華やかさ、凄み、雅やかさのどれをとっても、雅やかさに勝るグランドピアノは無いだろうと思われる。
 阿修羅のごときリストの演奏でもなく、クラヴィコードというバッハの時代楽器に近い音色は、ブリュトナーの得意とする音色だろう。
 べートーヴェンはヨハン・セヴァスティアン・バッハの音楽を、小川ではなく大海のごとしと言い及んでいたのは有名である。「インヴェンション」という二声部音楽の「構想品」は、たとえばトリロ(トリル)やモルデントという装飾音記譜に対していかに演奏するかという問題、「Si」に装飾するのはモルデントでも「ドシドシ」とするのは「トリロ」という奏法になる。つまりロザリン・テューレク女史は楽譜の読み込みを、既存の楽譜ではない解釈を記録している。ジュリアード音楽院に学び、カーネギー・ホールデビュウでは、電子楽器テルミンの演奏も行ったとされている。モダン・チェンバロも盛んに演奏しバッハ演奏家として、ゴールドベルク変奏曲の録音も優秀との評価を獲得している。
 三拍子そろうというのは、称賛する言葉でもあるのだが、スタインウエイ、ベーゼンドルファー、ベヒシュタインという名器に並び称される「ブリュトナー」を想像するのにクレジットは無記名であるのだがEMI第3アビーロード・スタジオ1958録音という標記から類推する。1969年1月録音の際にポウル・マッカトニーがLetItBeを演奏したグランドピアノクレジットを確認したとき、疑問は氷解する。あくまで、モノラル録音の再生音がそのニュアンスを表現しえたときに、その悦びはいやが上にも楽興の時となるのだろう・・・・・