千曲万来余話その633「ショパン曲ソナタ2番をラフマニノフが弾くと・・・」
LPというとロングプレイング、それではSPというと?すぐ反応するのはショートプレイングかということになる。ところが、昔は蓄音機レコード、78回転盤といわれていたもので、LPに対してSPレコードと呼ばれるようになった。それが、スタンダードプレイングであってショートプレイングというのは後から付けられたというようである。1887年ベルリナーの「グラモフォン」から歴史(1877年にはエジソンが「フォノグラム」を発明)は始まり、日本では1903年から製作され1963年に終了したという。始め吹き込み式アクースティックという録音から電気式録音へと展開を見せている。ちなみにLPは1940年代後半に実用化、1分間に33.1/3回転3分で100回転、1980年代になりコンパクトディスクCDへと展開する。
1930.2/15カーネギーホールで、セルゲイ・ラフマニノフ1873~1943は、フレデリク・フランチシェク・ショパン1810.3/1ワルシャワ近郊~1849.10/17パリ没、作曲ピアノソナタ第2番変ロ短調作品35を演奏、ラフマニノフはピアノの教育を受けていて12歳でフランツ・リスト1811~1886にピアノを師事していた。キャムデンレコード、CAL-396は、78回転盤録音をLPレコードに復刻したもの。このレコードを再生して、このソナタの録音第1号の価値をあらためて、思い知らされたように思われる。最高の再生は78回転盤の再生なのだろうけれど、なかなか経験できない。これが復刻LPレコードであっても、かなりの衝撃的な経験になる。
モノラル録音レコードは、専用のカートリジを使用する。盤友人の装置は、プレーヤーが専用として、ガラード301ハンマートーンシルバー仕様、RF309アーム、黒ツノオルトフォンカートリッジ、JSの昇圧トランスというラインナップ。ソナタの開始早々、ラフマニノフの左手打鍵にハートを鷲づかみにされる。この楽器の音色は、アルトゥール・シュナーベルの再生音(ベヒシュタイン)と共通する。ふくらみがあって、中低域は響板の豊かな響き、高音域は輝かしい香るような音色に響く。ダイナミックスのレンジが広く、ピアニストの微妙なタッチの加減が如実に再生される。
ショパンのソナタ第2番は、第3楽章に葬送行進曲が設定されている。作曲は1839年にされていて、29歳の時の創作である。葬送行進曲というとベートーヴェン、交響曲第3番の第2楽章に採用されている。レント遅くピアニシッシモからフォルテシッシモへと葬列のピーク、一転、中間部では美しい晴れ間の如き音楽、そして再び葬列の歩みに引き継がれピアニシッシモへと展開する。
ベートーヴェンは古典派からロマン派への橋渡しにあり、ショパンはロマン派のピークにあたる。古典派の音楽は、ハーモニーにしても、形式が重んじられていて、ソナタは32曲にまで作曲されているのだが、ショパンにしても、シューマンにしてもピアノソナタは3曲しか作曲されていない。ショパンのソナタ第2番の開始は短い序奏でありながら、充分に悲劇的な短調の音楽で、衝撃的である。古典派とロマン派の音楽上での相違というと、ハーモニーの転調の仕方にあるのではないかと思われる。意表を突くのはベートーヴェンもよく試みていて、ショパンは自由に転調を繰り返していく。このところが聴き手を心理的にひきつけるところであって、「浪漫」という漢字があてられるとおりに、波に揺られるが如きである。
オーディオのヴィンテージシステムの極みは、録音当時に、システム、パーツ部品を近づけるところにある。モダンオーディオとの違いは、充分にレコードのグルーブ音ミゾの情報を再生する。つまり、アナログとは、限りなく近似の体験を「追究」するところにあり、生の音楽ではなくて、記録の再生という原点を「追求」するところにある・・・第4楽章は80秒ほどで、あっというまに終結する。