千曲万来余話その630「ブルックナー4番クナッペルツブッシュの味一番・・・」
18火曜日東京には乾燥注意報ということで湿度20%の気象情報、これは何を意味するかというとオーディオファンにとり朗報、特に満月夜でもあり、スピーカーの鳴りは一年を通して最高だろう。一番分かり易いのは、ピアノソナタとか音数ひとつのコンパクトディスクでも充分効果が高まることが考えられる。今夜とくと聴き込まれることをお薦めする。
ハンス・クナッペルツブッシュ1888.3/12独エルバーフェルト生れ~1965.10/25ミュンヘン逝去は、1908年からケルン音楽院にて、シュタインバッハやオットー・ローゼらに師事、指揮法を修得する。以前ボン大学では哲学科に在籍していた。1922年にはワルターの後任としてバイエルン国立歌劇場で1936年に追放されるまで活動。以後45年までウィーン国立歌劇場の指揮にあたり、54年にバイエルンに復帰して58年までその地位にあり、51~64年までバイロイト音楽祭に登場、特にミュンヘン市民からは親しまれ指揮者として愛される人生を過ごしていた。彼の芸風は、時代が今から二世代ほど前に当たる。どういうことかというと、現代の主流は、ワインガルトナー以降の端正な音楽を目指していて、テンポの緩急を控えめにする音楽なのである。たとえば、それ以前の音楽では、モーツァルト演奏などで提示部のテンポは必ず変化させて展開部に入り、そのコントラストはギアチェンジ、シフトダウンして演奏するというような、テンポの変化を実感させる1930年代の記録はある。
クナの指揮は巨匠風といわれる典型である。オーケストラ楽員をしっかり統率してテンポの変化を演奏させるその指揮振りは、現代の指揮者にはなかなか求められない。だいたい、演奏会前のプローベが4回くらいでは、完成できず、コンサートに間に合わない。1977・8年セルジュ・チェリビダッケが読売日本交響楽団に客演した際には1週間のリハーサルがセットされた。チェリの芸術もアポロン的という巨匠風の指揮で、テンポ感覚を楽員と完全に共有した演奏に仕上げられる。簡単にいうと管理されたテンポ感であり、変化を否定する立場と、クナの音楽はテンポ変化を愉しむ演奏ということである。札幌では、2013年2月定期公演で指揮者レイフ・ゼーゲルスタムの登場があったが、正に、このテンポ変幻自在のブラームス悲劇的序曲、自作の交響曲245番、Rシュトラウス死と変容というラインナップだった。
ブルックナー交響曲第4番変ホ長調ロマンティッシェ1874~80年作曲改訂など第4稿まである。原典版のほかハース版ノヴァーク版など多岐にわたる。第4楽章の展開でクライマックスにシンバルの強打が加えられるか否かで印象は異なる。クナッペルツブッシュの使用楽譜は特殊で、ティンパニのクレッシェンド何回もして手を加えている。あるいは、第3楽章など大胆な割愛など、改定版にも手を加えているから独自の楽譜を使用しているのかもしれない。LXT5065~66DECCA1955年4.5月モノラル録音(CDではUCCD9718~29)を聴く。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、特筆すべきは弦楽合奏の音の厚みであり、その音色の輝きは、美事に記録されている。管楽アンサンブルも、第1楽章の再現部の直前、クラリネット、フルートの独奏で旋律が受け渡されるリタルダンドは絶妙で、ホルンが冒頭の音楽をその開始のテンポで演奏するなどオーケストラの名技性は比類がない。第2楽章で祈りのチェロ斉奏などその豊かな音楽にクナとウィーン・フィルの幸福なコンビネイションをありがたく思わざるを得ない。
録音はワーグナーのジークフリート牧歌が併録されているが、なるほどワーグナー曲かと思うのであるが愛息誕生を祝う音楽でちょいと待て1954年11月末には当時のライバルF氏の死去、なんともアイロニカルでも一流?・・・