千曲万来余話その622「モーツァルト曲クラリネット協奏曲イ長調、ベニーの音色は・・・」
先日オペラ魔笛公演に足を運び、知人から指摘を受けてなるほどなと思うところが有った。今や演出家が脚光を浴びるオペラ公演で、このたびは国内の札幌開催にあたる。舞台装置はプロジェクションマッピングの演出で、これからのオペラ上演の方向が有るような気がした。ただし、問題点としては、舞台の「かみ手しも手」、前後左右そして中央という奥行き感の設定という歴史的な課題を解決せずに上演は、深みを失うことになる。具体的にいうと、歌手陣の音響が今回hitaruでは、未消化の様子で、音響的な愉しみは欠いていた。声が響いていないし、グロッケンシュピールがチェレスタ代用で、その上、音響補正がされていたのが象徴されている。フルートの独奏にしろP・Aパブリックアドレス拡声されていたのはいかがなものか。
ある知人の指摘というのは、歌劇魔笛のひとつの主題、フリーメイソンの比喩である。ザラストロの仕切る儀式風音楽は、明らかにモーツァルトの意図、暗から明への展開という核心で、それを演出家は「家族愛」へ変換していたということである。叡知、博愛、友情というテーマの解釈は一貫していたのだが、核心を避けていたといえる。余話499で海老沢敏先生のことを詳述しているが、先生の指摘によると、М氏の1784年12/14結社入会に言及している。(魔笛作曲は1791年。)ウィーンに移り住んで3年目であった。彼が31歳33歳の時に誕生した子女は若くして死去している。自由な石工を意味した秘密結社は、裏社会の象徴であって、モーツァルトはその事実を寓話的歌劇に託していたのであろう。今回の上演ではその事実をスルーさせていたといえる。
クラリネット協奏曲イ長調K.622は、アントン・シュタットラーという当時の宮廷楽団名演奏家の存在なしにはありえなかった。日常的にも親しい間柄である。Fメイソンのメンバーであったといわれる。バセット・ホルンのために第1楽章が作曲されて、バセット・クラリネットにより演奏されることも多い。クラリネットという楽器は変ロ調管、イ調管が一般的、ニ長調の交響曲などではしばしばイ調管で演奏される。少し長目で、太く柔らかい音色に特徴がある。1956.7/9バークシャー音楽祭コンサートホール、タングルウッドでの録音で、独奏者はジャズの巨星ベニー・グッドマン1909.5/30シカゴ生まれ~1986.6/13ニューヨーク・マンハッタン没(出生名ベンジャミン.デイヴィド・グッドマン)、彼の音色は野太く、輝かしく明るい。楽器の響きを耳にするとき、もしかしたら、変ロ調管かもしれない。とすると使用楽譜はロ長調で♯嬰記号が五つになるから、超絶のテクニック、指揮者シャルル・ミュンシュもびっくりするほどの腕前で、ミュンシュは涼しい顔して指揮していたことに違いない、共演はボストン交響楽団。第1楽章の終結部に入るあたりで旅客機の飛行音が聞こえてくる。第2楽章では雀の鳴き声が聞えたりで、素朴なレコードに仕上がっている。グッドマンは1940年には、バルトーク・ベラのピアノとヨゼフ・シゲティのヴァイオリンと三重奏曲「コントラスト」を録音している。盤友人はカーネギーホールライヴの1938.1/16録音コロンビアレコードを所有している。あれは、熱狂的なジャズコンサートで世情はナチスドイツとの戦争突入前夜の雄たけびのように聴いていた。ジーン・クルーパのドラムスなど彼が叩いた音符の数でギャランティを勘定させたというエピソードは有名な話。ジャズアーティストでありなおかつ、RCAレコードにはジャン・マルティノン指揮シカゴ交響楽団とウェーバーの協奏曲、モートン・グールド指揮同交響楽団とニールセンの協奏曲など技術性、音楽性など超一流である。モーツァルトの協奏曲を愛する人には、たまらないベニーの音色といえよう・・・