千曲万来余話その620「C・シューマン、ロマンス永峰さん秘曲の名盤誕生・・・」

 2020年リリースされた永峰高志さんヴァイオリン演奏、久元祐子さんベーゼンドルファーを弾いたLPレコード、購入し聴き続けてようやく発信する段階を迎えた。昨年の2/13、14に録音されたということは、かろうじてコロナ禍以前の記録になる。曲目はクララ・シューマン作曲3つのロマンス、ヨーゼフ・ヨアヒム作曲3つの小品からロマンス変ロ長調、ロベルト・シューマン作曲3つのロマンスから第2曲そしてヨハネス・ブラームス作曲ソナタ第1番ト長調雨の歌という構成。1853年20歳の青年ブラームスは、知遇を得てヨアヒム、そしてクララとロベルト・シューマンと出会いを得ている。そのヨアヒムこそ後に、ブラームスやブルッフの協奏曲初演とかカデンツァの校訂を受け持った巨匠である。このレコードA面で聴くことのできる彼のロマンスは、レガート奏法で滑らかにそうされて行き中間部と後半に高音の輝かしい音色を披露する音楽、すなわち、演奏家に取り、ハードルを分かり易く設定された名曲に仕上がっていて、永峰さんは見事、輝かしい音色を記録することに成功している。
 何を隠そうこのレコード、演奏されている使用楽器は国立音楽大学から貸与されているアントニウス・ストラディヴァリウス作「ヨアヒム」1723年による。いうまでもなく、ヨーゼフ・ヨアヒムゆかりの名器、フランソワ・クサヴァ・トゥルテの弓、そしてグランドピアノはベーゼンドルファー290インペリアル、浦安コンサートホール録音である。ワンポイント・ステレオマイクロフォン使用、録音スタッフは平井義也、オオツキ・ケン、黒田ダン。ピアニストの久元祐子さんは数少ないベーゼンドルファー・アーティスト。クララ・シューマンの曲からヨハネス・ブラームスまで安定感溢れる演奏を披露していて、クララ・シューマンのロマンス2曲目でもト短調で終わるはずのところがピカルディのⅠという終止も巧くて見事にはまっている。
 話は変わるが、知人からスピーカーで「仮想アース」をはずしたら音が良くなったんだわあという指摘を受けた。クリスタルEの効果否定の指摘なのであった。そこで、盤友人は早速、付けた状態、そして外してその差を確認、さらに復旧して確認するという手間をかけてみたものである。結果は明白であって、仮想アースを外すと音が粗削りになり、おまけに、ヴァイオリンとピアノの位置関係が希薄になった。ワンポイント・ステレオマイクであっても、オイロダインスピーカーのドライバーとウーファーのツーウエイは、楽器とマイクの距離感をしっかり、再生する。すなわち、ウーファーでもって、グランドピアノの豊かな音響は安定していて、ドライバーでもってVnの音色は輝かしい。一聴瞭然とはこのことを云って、感覚的な良い音はどちらかという元気さを求める聴き方と、盤友人が再生する音場感は明快に異なるだろう。
 このLPレコードは演奏者はもちろのこと、録音スタッフとの共同作品なのであって、コンパクトディスクとは明らかに、情報量、再生して獲得される感覚は、なぜLPレコードなのかという質問に対する答えを与えてくれるのである。永峰高志さんは、開始の一音から、お仕舞いの一音まで、丹念な仕上げを目指して繰り返し聴き返されるレコードに耐えうる演奏の高みを記録することに成功していると言って差し支えない。独奏家ソリストの演奏というものとは、一味違っていて、派手な表現とは一線を画しているのだが、たとえば、ブラームスでは、ジョコンダ・デ・ヴィートとエドウィン・フィッシャーの録音とは録音意義が異なるのだろう。このディスクは、クララとロベルト・シューマン、ヨーゼフ・ヨアヒムとヨハネス・ブラームスの関係性に着目し、その記録に成功した共同作業の偉大な記録といえる・・・

 

※掲載レコード:株式会社マイスター・ミュージック/レコード番号MMLP-9001