千曲万来余話その616「ブラームス交響曲4番カルロス・クライバー指揮は渋くて深くて・・・」
山は錦秋の装いで、街路樹も色づき始めた季節、手が伸びるレコードはブラームスが相応しい。ハ短調、ニ長調、ヘ長調そしてホ短調という主調が4曲の交響曲、ドレファミという音型は、いわゆるジュピター動機モチーフにあたる。これは偶然かというより、ロベルト・シューマンの4曲の番号付けによる変ロ♭b、ハC、変ホ♭E、ニdという主音の交響曲も隠されたジュピターモチーフであって、考え抜かれた選択なのだろう。
第1番は着想から20年余りというより作品68というベートーヴェンの作品番号67に一目置いた作曲で完成は1876年9月リヒテンタールで迎えた。そののち、1877年6月に交響曲2番を同地で完成。牧歌的な交響曲で、第3番は1883年12月2日ウィーンで初演された英雄的作品。第4番は1884年の夏ミュルツシュラークで着手され、翌年夏同地で全曲を完成、1885年10月25日作曲者自身の指揮、マイニンゲンで初演されている。
盤友人はリアルタイムで昭和43年5月20日東京上野文化会館公演、ヨゼフ・カイルベルト指揮バンベルク交響楽団演奏会でブラームス交響曲4番の名演奏を記憶している。NHK-TVで放送され視聴された皆さんも多い事だろうと思われる。NHKCDのKICC422で記録されている。カイルベルト1908.4/19カールスルーエ生れ~1968.7/20ミュンヘン没は1949年からドイツ・ブラハフィルハーモニー現在バンベルク交響楽団の前身の首席指揮者に就任、52~56年にはバイロイト音楽祭に指揮者として活躍、65、66、68年にはNHK交響楽団を客演している。彼の父親はカールスルーエ宮廷楽団でチェロ奏者、カイルベルト指揮する音楽の素養としてその影響を考えると興味深い。68年ブラームス演奏の記憶では、ティンパニの熱い演奏、明らかに、指揮者の意志や楽員みなのアンサンブルに強い熱情を加えていた。
ファーストクラシックUSA盤FCLP704、1998年リリースされたレコード、指揮カルロス・クライバーによるバイエルン国立管弦楽団ライヴ録音は、最高度の完成になる演奏を記録している。フレーズのしなやかさ、アインザッツ音の入りの正確さ、軽妙な木管楽器、燦然たる管打楽器群、そしてなにより、弦楽器の重厚さ。第2楽章アンダンテ・モデラートでは、巡礼の音楽に始まり、フライングダッチマン、トリスタン、ニュルンベルクのマイスタージンガー入場、森のささやき、そして、神々のたそがれなどなどあたかも、ワーグナー1813~1883へのオマージュ、つまり追悼の音楽に溢れている。当時ワーグナー派とブラームスは対立関係にあり、彼は一曲も歌劇を作曲していない。どういうことかというと、音楽とドラマの関係において管弦楽の音楽に歴史の道をたどり、終楽章においては、パッサカリアというバロック音楽様式に的を求めて交響曲の展開を見せた、ロマン派の中にいて古典的世界に理想を求めたブラームスの真骨頂はある。
クライバー指揮するミュンヘンの楽人たちは、ヴァイオリンダブルウイングを実践していて、時代を先駆けているといえるだろう。カイルベルトの音楽を、当時の評論家大木正興氏は、渋くて、深くて、奥行きがあってという言葉で形容していたものである。いぶし銀の音楽を、カルロス・クライバー1930.7/3~2004.7/13は、1998年リリースのLPレコードで名演奏を聞かせてくれる。つまり、カイルベルト指揮する時代は、指揮者の右手側にコントラバスを配置する音楽で、クライバーは低音楽器を中央に設定し、第2ヴァイオリンを右手側に展開配置する。これは、時代の魁なのである。
第3楽章アレグロ・ジョコーソで活躍するトライアングルは、リスト作曲ピアノ協奏曲第1番第3楽章を思い出させる。快速で、喜ばしげに演奏される音楽の象徴なのだろう・・・