千曲万来余話その615「ワーグナー曲ワルキューレ、F氏ラスト録音を聴く・・・」
歌劇というと脚本があり音楽劇でもって、一晩を楽しむものだが、リヒャルト・ワーグナーは4夜に渡りひとつの作品を楽しもうという「楽劇」を創作している。「ニーベルングの指輪」は、序夜「ラインの黄金」第1夜「ワルキューレ」第2夜「ジークフリート」第3夜「神々の黄昏」からなる。
ラインの黄金から作られた、世界支配の権力を備える指輪、それはニーベルング族の王アルベリヒから、神々のおさヴォータンを経て、巨人ファフナーの手に渡る。指輪の魔力にとりつかれた者たちの熾烈な闘争の幕開け、ワルキューレは神々の長の軍乙女たちで世界支配の魔力を持つ指輪を奪い戻すべくヴォータンは策略を講じたが、軽率から土壇場で失敗に帰する。指輪が暗黒の王アルベリヒの手に戻れば、神々は破滅するのだ。一度は没落をヴォータンは覚悟する。ヴォータンの子のジークムントの遺児ジークフリート、森の中でたくましく成長する。怖れを知らぬ若者は、巨人族ファフナーを殺害して指輪を手に入れたが、彼自身はそれにまつわる世界支配の力や呪いについて何一つ知らない。神々に終焉、アルベリヒの邪悪な息子ハーゲンの魔の手がジークフリートに迫る。ついに、指輪の呪いが英雄を襲った。世界支配の権力を持つ指輪は、ニーベルング族の手に落ちるのだろうか?物語は壮大な終末へ向かってつき進む。
第2夜のワルキューレは4夜の中でもっとも叙情的な美しさに満ちた作品になっている。第1幕でヴォータンの子、ジークムントとジークリンデの愛の歌、第3幕冒頭ではフランシス・コッポラ監督の映画、地獄の黙示録で有名になった、ワルキューレの騎行、おなじく幕切れでの「ヴォータンの告別と魔の炎の音楽」など聴きどころは多い。
フルトヴェングラーは1954年9月28日~10月6日にウィーン・ムジークフェライン・ザールで、「ワルキューレ」全曲録音を残している。これは彼の最期の録音となっている。レコーディングでは、ライヴ録音としてミラノスカラ1950年3-4月、ローマ歌劇場1953年10-11月 のものが記録されている。1937年ロンドン、コベントガーデン王立歌劇場2回公演がある。EMI録音になるウィーンフィルハーモニー演奏、配役はジークムントがルートヴィヒ・ズートハウス、ジークリンデがレオニー・リザネック、フンディングはゴットループ・フリック、ヴォータンは、フェルナンド・フランツ、ブリュンヒルデはマルタ・メーデル、フリッカはマルガレーテ・クローゼ、ゲルヒルデはゲルダ・シェイラー、オルトリンデはユディッタ・ヘルヴィヒ、ヴァルトラウテはダグマール・シュメデス、シュヴェルトライテはルート・ジーヴェルト、ヘルムヴィーゲはエリカ・ケート、ジークルーネはヘルタ・テッパー、グリムゲルデはヨハンナ・ブラッター、ロスヴァイセはダグマール・ヘルマン。
フルトヴェングラーが、バイロイト音楽祭に初めて登場したのは 1931年「トリスタン」で、1936年「指輪」「パルジファル」「ローエングリン」、1937年「指輪」「パルジファル」、1943年と44年「マイスタージンガー」と続く。ちなみに1930年にはアルトゥーロ・トスカニーニが「トリタン」を指揮していた。大戦後1951年7月29日、1954年8月9日にはベートーヴェン「第9」を指揮していて1951年録音のものは特に有名である。
フルトヴェングラーの晩年は、聴覚障害がうわさされていて、コミュニケーション会話がなかなか成立していなかったというものがある。晩年といっても1886.1/25生まれだから録音自体はF氏68歳のもので壮年期といってもさしつかえない。何よりウィーン・フィルとの関係性は抜群に濃密であり、ここでの演奏もブラス演奏の燦然とした音色、雄大な弦楽器、雄弁な木管楽器の活躍は空前のことだろう・・・