千曲万来余話その604~「モーツァルト曲Vn協奏曲4番、パールマンとレヴァインとウィーンフィルで・・・」
ヴァイオリン協奏曲の愉しみというと、独奏楽器の鮮やかな演奏が主なものであり、管弦楽の演奏には関心が向かないかもしれない。というのは言い過ぎであってこのレコード、指揮者の価値が問われる重要な演奏に仕上がっている。指揮者の仕事として、採用する楽譜の選定に始まり、楽員人数の決定、独奏者とテンポの設定から音量のバランス、緩急の具合、カデンツァの仕上げで管弦楽の入り方に至るまで作曲者の意図を表現する音楽的コーディネーターの働きを有する。
このレコードの歴史的価値は、オーケストラでVn両翼配置採用にある。1985年6月ウィーン、ムズィークフェラインザール、デジタル録音。録音方式でステレオになり30年余り経過して、モーツァルトのVn協奏曲における最初の古典配置になる。それまではステレオというと左スピーカーにヴァイオリンの第1と第2を束ねて、右スピーカーからチェロ、コントラバスという形態がほとんどであった。それが当然のごとく、録音のみならず音楽会の風景はコントラバスが舞台上手という固定観念が出来上がっていた。そこに革命を起こしたのが指揮者ジェイムズ・レヴァイン1943.6/23米国オハイオ州シンシナティ生れ~2021.3/9カリフォルニア州パームスプリングス没。1964年ジョージ・セルに招かれてクリーブランド管弦楽団の副指揮者、1973年ラファエル・クーベリクの推薦によりメトロポリタン歌劇場の首席指揮者となる。ベルリン・フィルやウィーン・フィルと録音活動でアメリカンドリームを体現、その申し子であった。85~89年モーツァルト交響曲全曲は金字塔樹立であり、古典配置採用という快挙である。
音楽は音による芸術だから、音は聞こえることが重要で、楽器配置は二の次という。その前提は、モノーラル録音の基本となるコンセプト概念である。それがステレオ時代には、左高音域、右側低音という前提に立ち、声部でいうとソプラノ、アルト、テノール、バスという具合で指揮者の右手側に低音配置が前提の時代となった。なんのことはなく、コントラバスと対称の配置でホルンが舞台下手に位置するという。現代の指揮者はこの感覚でベートーヴェンの交響曲5番などを演奏してはばからない。これがモノラル録音的発想ということになる。だから、現代の指揮者たちの多数派は、Vn両翼配置をネグレクト無視する。これは効果的、オーケストラ理想の配置形態の破壊にほかならず、つまらない音楽に平気な指揮者というか、モノラル的発想にとどまる、時代遅れの音楽に他ならない。ステレオ録音では、指揮者左手側に第1ヴァイオリン、右手側に第2ヴァイオリンというコントラスト対称が成立して、まことに面白い作曲家の意図に沿った、効果的弦楽配置でもってモーツァルトの音楽を愉しめることになる。指揮者に正対してチェロとアルトが位置することは音楽に厚みをもたらすことになる。独奏楽器になんのかかわりもない事ではないか?という疑問は、演奏を耳にするとき氷解する。ニ長調ケッヘル番号218の輝かしい音楽が古典配置とガッチリ組み合わさり、協奏曲が二度美味しくなるという仕掛けである。イツァーク・パールマン1945.8/31テル・アヴィヴ生れは、輝かしい音色を惜しげもなく披露してカデンツァも彼が作曲している。
ステレオカートリジを使用して再生する時、エイジングとして同じ調性、協奏曲がニ長調ならニ長調の曲でハープシコードの演奏を再生しておいてかける時、レコードの再生は極上の輝きを放つ。
ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト1756.1/27ザルツブルグ生まれ~1791.12/5ウィーン没は1775年9、10、12月と集中してザルツブルグにてヴァイオリン協奏曲3番ト長調、4番ニ長調、5番イ長調と傑作を生みだしている…