千曲万来余話その599~「ラヴェル曲Vn奏鳴曲ジノ、作曲者直伝の演奏・・」
モノラル録音レコードとステレオレコードの世界は、録音方式の相違がよく問題になる。すなわち「モノラルは音が悪い」という前提に立つ。それは音楽鑑賞にとって甚だしい「思い込み」に過ぎないことである。豊かな音楽は、モノラルの欠点以上の情報を提供している。どういうことかというと、欠点とは「定位ローカリゼイション」が無いことであって、本質的欠点とはいえない。音楽的感動は、ステレオ録音をはるかに凌ぐことさえある。それは音楽情報、ソースのポテンシャルにある。
たとえば、ジノ・フランチェスカッティ1902.8/9マルセイユ生まれ~1991.9/17ラ・シオタ没は、ラヴェル1875~1937をして作曲する意図に相応しい演奏をするといわせている。R氏はツィガーヌ1924年、Vn奏鳴曲ト長調1927年この年の11月にはボレロを作曲、ところが1932年10月不慮の自動車事故、それが原因で脳疾患を患い、享年62歳1937年脳外科手術の後死去。
1975年、若書きのVnソナタの草稿が発見されてVnソナタは2曲認められ、第2楽章ブルースのソナタは、第2番とも呼ばれるようになる。23~27年作曲のソナタ奏鳴曲は第1次大戦後の世相を反映していて、アメリカ音楽とりわけジャズの影響がみられる。5/30パリ初演は自身のピアノ、エネスコのVn演奏、エラール奏楽堂で行われている。第1楽章アレグレット(やや快速で)、ピアノの短いフレーズから始められ、二つの相いれない楽器のようにインGト調とインAs変イ調という隣り合った調性で演奏が進む。ブルースではピツィカートで楽器バンジョーのような効果を発揮したり、サキソフォン(1841年に制作された楽器)の感じを表現している。第3楽章無窮動アレグロ(快速で)を作曲者はいくらでも速く演奏して良いと指定している。
フランチェスカッティについて、昨年末、使用楽器グァルネリという発信をしていたのだが、情報によるとストラディバリウスといわれている。たとえばヘンリク・シェリングやサルバトーレ・アッカルドたちは、以前グァルネリを使用していてもある時点でストラディバリウスに変更しているように、使用楽器は一定しているものでもない。GゲーDデーAアーEエー4弦のうち低音域のG-D線での音色は、ストラッドは豊かな鳴りでピュアな印象をあたえる。フランチェスカッティの音色は、明らかに朗々と伸びやかな音色を聴かせている。特に、ブルースでの艶やかな演奏は、ほれぼれする音色で歌いあげていて、緊張感ばかりではなく、歌心がヴァイオリンならではの世界を繰り広げている。ピアニスト、ここではアルトゥール・バルサム1906.2/8ワルシャワ生まれ~1994.9/1ニューヨーク没という好サポートを得ている。ジャケット写真ではロベール・カサドジュが映っている。ラヴェルでカサドジュとのコンビでないことに、フランス人よりはアメリカの雰囲気を醸し出すのに効果を上げているのだろう。
ここでモノラル録音レコードの効用を挙げるならば、演奏のグレードがあるだろう。モノラル録音の世界に、音楽の感動を求めて、外れることはかなりの確率で少ない。F氏の楽器の音色など輝かしく、艶が有り、なおかつ朗々と豊かな鳴りは、コンパクトディスクでは情報欠落の魅力に違いない。モノラルピックアップ、カートリジを使用する時、スピーカーと鑑賞者の間には放射する空気振動が感じられる。この振動感覚は、鼓膜を通して頭脳がバイブレーションをかけられている状態である。
フランチェスカッティは、小刻みなヴィヴラートを掛けていて、歌心の表現に長けている。こういう演奏は、現代で、耳にすることはないといって言い過ぎではない。ストリングのクオリティが別なのである。この聴き分け可能こそLPレコード最良メリットと云えるのだろう・・・