千曲万来余話その595~「モーツァルト作曲ピアノ協奏曲第15番変ロ長調、ターナバウトの名盤・・・」
先日NHK-Eテレで1973年と72年に録画のユニテル社作品が放映された。チャイコフスキーの「悲愴」カラヤン1908.4/5ザルツブルグ生まれ録画時65歳指揮ベルリン・フィルの演奏、この曲は、指揮者とオーケストラ奏者のモチベイションとしてその年の音楽家の訃報が大きな影響を与えている可能性がある。1973年 4/2ヤッシャ・ホーレンシュタイン74歳、4/16イシュトヴァン・ケルテス43歳、5/28ハンス・シュミット・イッセルシュテット73歳、7/3カレル・アンチェル65歳、7/6オットー・クレンペラー88歳、10/22パブロ・カザルス96歳。多数の音楽家の逝去に対して、哀悼の意を捧げる音楽としてこの映像が記録されている。映像監督エルンスト・ヴィルト。音楽に合わせて、管楽器奏者のアップシーンや、指揮者を下手側から上手側からのカットが挿入されていて、明らかに切り貼りの映像、ということは、音楽に合わせて張り付けられた映像という虚構性は否定できず、音楽鑑賞というよりはカラヤン1989.7/16ザルツブルグ没80歳の「指揮振り」記録化がひとつのコンセプトなのであろう。
一方、レナード・バーンスタイン1918.8/25米ローレンス生まれ~1990.10/14ニューヨーク没録画時63歳指揮ウィーン・フィル演奏によるマーラーの交響曲第5番嬰ハ短調は1972年、4,5月演奏のライヴ録画。こちらは指揮者とオーケストラの一体感が鮮明で音楽鑑賞での違和感は、カラヤンのものほど与えられない。当時コンサートマスターのゲアハルト・ヘッツェルさんの生き生きした姿には、ウィーン・フィルの象徴的存在で他の管楽器奏者達の名演奏とタイアップして、興味深い映像に仕上がっている。この2つの映像で比較して論ずるには、別な価値観が介在して、音楽鑑賞とは別な世界にあるといえるだろう。
1966年コピーライトのLPレコードでモーツァルト作曲ピアノ協奏曲第15番変ロ長調K450、ピアニストは、ペーター・フランクル1935年10/2ブダペスト生れ英国在住。12歳で初リサイタル、リスト音楽院でラヨシュ・ヘルナディ教授(バルトーク・ベラの生徒)に師事、最高賞受賞して卒業、ゾルタン・コダーイ、マルグリット・ロンらに学び、確かな打鍵と深い音楽性をそなえた演奏を展開していてドビュスィの作品などもリリース。指揮者はイェルク・フェルバー1929.6/18シュトゥットゥガルト生まれ、1954年ハイルブロン歌劇場指揮者に就任、60年にヴュルテンベルク室内管弦楽団を組織、79年に来日を果たしている。 モーツァルトは1784年に集中してピアノ協奏曲を作曲、2/9変ホ長調K449、3/15変ロ長調K450、3/22ニ長調K451、4/12ト長調K453、9/30変ロ長調K456、12/11ヘ長調K459など14番から19番まで傑作が花盛りである。K450の第2楽章変奏曲はギャラントスタイル優美様式の代表であり、壮麗なバロック音楽からペルゴレージまでの流れを汲み、モーツァルト特有の音楽を展開している。第1楽章は管楽器が主題を提示するなどM氏の個性を発揮した音楽になっていて、協奏曲の定型というよりは、自身の意欲的な作風を発揮した作品となっている。
ペーター・フランクルの深い打鍵は、低音域倍音の再生に恵まれていて、「ベーゼンドルファー」、クレジットこそ未標記であるものの、ウィーン音楽に相応しい雅やかな音色を聞かせている。ブダペスト出身というと女流アニー・フィッシャー1914.7/5~1995.4/10も純然たるベーゼンドルファーピアニストである。ターナバウトレーベルは1970年代の日本コロンビアからエベレストなどとともにリリースされている。この時代、ピアノの音色は一辺倒でなく、妙なる音色を記録していて、そのレコードは貴重といえるだろう。華やかな音色のスタインウエイ、低音域倍音が特徴的なベーゼンドルファーという音色の比較は、レコードコレクターにとって、聴き分けるのは興味深いテーマ、女性か男性かというだけではなく、倍音再生に成功したあかつきに、喜びはあまりあるだろう…