千曲万来余話その589~「ドヴォルジャーク、チェロ協奏曲ロ短調を若きスラヴァで・・・」
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ1927.3/27アゼルバイジャン・バクー生まれ~2007.4/27モスクワ没は、チェロ奏者として活躍、ピアノ伴奏、指揮者としても活動していた。エネルギッシュな指揮振りはロンドン・フルハーモニックとチャイコフスキーの交響曲全集、パリ管弦楽団とのシェラザードなど名演奏を記録している。ソヴィエト連邦から出て1957年4月エードリアン・ボールト指揮ロイヤル・フィルハーモニックと協奏曲を録音。ステレオ録音でモノラル盤もリリースしていて、ALP1595ナンバーを再生した。ボールト1898.4/8チェスター~1983.2/22ロンドン指揮者は67歳の時で、スラヴァは丁度30歳、彼はターリヒ、カラヤン、ジュリーニ、小澤らとも録音しているからステレオ初期時代のレコードとなる。
日本ではボールト指揮の録音のリリースは希少で余り話題にならないがそれは、日本の音楽界の問題なのであって、演奏の内容は素晴らしく豊かな音楽で満たされている。協奏曲となると独奏者に自由闊達な演奏ぶりを求めがちであり、このボールト盤はその観点からすると、控えめな印象を受けるのだが、よくよく聴き込むと、アンサンブルが極上であることに気付かされる。どういうことかというと、オーケストラの各パートとの兼ね合いが緊密、緊張感に満ちていて、その上で自由な呼吸が感じ取られる。指揮者の音楽は格調が高く、しっかりした造形が形作られている。弦楽器は緊密な演奏ぶりであり、木管、金管楽器のパート独奏などの演奏ぶりも、たとえば、フルートは音程感がアバウトに近いという弱点を持ちながらも与える印象は、イントネイションは正確だという演奏を展開している。第2楽章の終わり近くでホルン三重奏の印象的な音楽が待ち受けているのだが、肩の力を抜いた、なおかつ、優雅で宗教的な味わいが満点のアンサンブルに接する時、独奏チェロは俄かに格調高い演奏を引き継ぐことになる。まさに、独奏と管弦楽が一体となった極上の時間を経験することになる。
ボールトの指揮はオーケストラのバランスを的確に整えて、しっかり長い指揮棒を駆使していて見やすい姿であっただろうことを想像させてやまない。オーケストラ音楽のトレイニングを確実に築き上げた上での演奏であることは当然どころか、安心感を演奏者にも鑑賞者にも与える音楽に仕上がっている。すなわち、指揮棒を振り回すことなく、演奏者との信頼関係を開陳しているといえる。
ドヴォルジャークは1895年54歳にしてチェロ協奏曲に取り組んでいる。51~53ニューヨークの音楽院長に就任していた。それ以前ロンドン訪問は頻繁で1890年49歳の時第8交響曲を当地で初演していた。ということは作曲者は意外に英国との関係は密であったといえる。1896年にロンドンでチェロ協奏曲は初演された。ボールト盤のロイヤル・フィルハーモニックは1946年、トーマス・ビーチャム卿によって設立されている。ホルン首席奏者はデニス・ブレイン、彼の存在は独奏のみならず、管楽のアンサンブル全体にまとまりが緊密であり、D・Bの天才性は衆目の一致するところであった。デニスと一緒にアンサンブルする悦びは、緊密な演奏に集約されている。
モノラル録音はカートリッジ針をモノラル仕様を採用することにより、一段と性能がアップされた再生を可能としている。よく、雑誌の録音評価で30%割り引く判定を成されているものであるのだが、どこに根拠が有るものか? 演奏の説得力は明らかにステレオ録音より倍増していることは、確かであろう。
ロストロポーヴィチ独奏する楽器の鳴りは雄弁で、量感豊かであり、他に共演していた指揮者のレコードより格調の高さは、秀でているといって過言ではない。「スラヴァ」の光栄は不滅なのだろう・・・