千曲万来余話その567~「「運命」でテンポは如何に?ブーレーズ指揮するアレグロは・・・ 」
ベートーヴェン交響曲第5番ハ短調は作品67ということを認識するのは、チャイコフスキーがピアノ協奏曲第1番変ロ短調作品23というときに気が付いたものだ。調性はシ・フラットでbというものになる。ちなみに変音だからbビーで、♭が無いときはhである。いずれにしろ1873年作曲。運命の作曲は1808年だから、ウィーンの音楽がモスクワの作曲家になんらかのインスピレーションが伝わったのだろう。運命の動機は、作品10の1ピアノソナタ第5番ハ短調の終楽章で、ウタタタ・タ、タタタ・タ、タタタ・ターという瞬間に出会う。このことはフリードリヒ・グルダの演奏できわだっていた。グレン・グールドの演奏では、そのことは封印されていてアルトゥール・シュナーベルの演奏に近いものを感じさせられたものである。1798年作曲で作品10の2はソナタ第6番ヘ長調、作品10の3は第7番ニ長調、伯爵夫人アンナ・マルガレーテに献呈された。そういえば田園交響曲は、作品68でヘ長調、ピアノソナタ第5、6番の10年後1808年作曲になる。 ウタタタ・ター、ウタタタ・ターという動機モチーフは、通常、4小節の表記で済む話、ところがB氏はファファファ・レーというところの、レの小節をタイでもって同じ音をつなげて2小節目にフェルマータ延音記号を付している。初版の楽譜ブライトコップフ・ウント・ヘルテル社のものでは、同音連結になっていない。このことは何を意味するのか?すなわちこの一所にB氏の思惑がある。ある評論家は、2小節目のフェルマータより、5小節目のものは1小節分長いと説明して、指揮者の中にはトスカニーニの映像を見て分かるのだが彼は、それを同じ振り方でもって、1小節分長いという仕方を示すことはない。ブルーノ・ワルター指揮は、コロンビア交響楽団のレコードでは5小節目の方を短く済ませる解釈を記録している。
フェルマータというのは、拍節を停止して自由に延ばすのだから、かの評論家の説、大多数の方の印象は、よく考えると成り立たないものなのである。何気なく聞いていると後者の方を延音するほうが納得するのだが、作曲者の意図は、違うところにある。それがすなわち、4小節から5小節へと動機を拡張した説が考えられる。バーンスタインは、音楽のよろこび、訳者吉田秀和によると1954年11月14日放送のテレヴィ番組で、第5番交響曲の解釈アナリーゼを発信している。最初の4個の音符、その前には1個の休符があり、2小節から構成されている。この認識をさらに拡張すると全体で5小節の感覚が必要になる。オーケストラ総譜を開くと、弦楽5部の他にB♭クラリネットが同じ音楽を演奏している。盤友人はこれを、舞台の上で指揮者の右手側上手の音響を補強していると解釈する。フルート、オーボエ、バスーン、ホルン、トランペット、ティンパニ、これらの楽器は休止していて、同じようにフェルマータを2と5小節目に付している。最初にはいつつの楽器だけで、7個の楽器には無かったという指摘をしていて、クラリネットは後で加えられたもの、ということになる。ちなみにフェルマータをB氏は、2と5、21と24、128、249と252、268、479と482という10小節に記譜されている。それぞれペアの場合は2つ目が同音連結、128小節目はペアにならないでフェルマータが記譜されているところで、長さの区別説が説明できないことを意味している。268小節目はオーボエが独奏して、レチタティーボ詠唱風に1小節だけで記譜、カデンツァ装飾5小節相当部分が演奏される。
B氏の作曲は明らかに5小節1単位で作曲されていて、楽章の終結は476~501という25小節で完結する。現行の楽譜では477~502になっている。現行譜は389小節目に全休止が有るからで、それを作曲者は記譜していないと考えるのはニキッシュ指揮や山田耕筰、パウル・クレツキ指揮1966年コピーライトでバーデンバーデン南西ドイツ放送交響楽団、最近知人に提供されたSP復刻CD録音でブルーノ・ザイドラー=ウィンクラー指揮、帝国大管弦楽団による(ニキッシュ録音以前の)ものなど、全て、第一楽章501小節作曲389全休止なしによることで分かる。
ピエール・ブーレーズは、現行譜に従うものなのだが遅目のテンポを採用していて、ニューフィハーモニア管弦楽団1968年12月録音。クレンペラー、フリッチャイ指揮などと共通するテンポ設定。楽章終結に25小節というのは、5の平方であり、全休止を123、124小節と2小節連続して設定しているから、389小節目全休止は不要である。406小節目から音楽は流れ出すという規格は作曲者の設定に必要であり、それは5小節1単位という大前提による。単なる全休止の否定ではなく音楽の枠組み、基本設計の土台という感覚になる。それは、ブーレーズ採用のテンポでもって明らかになり、彼は389小節全休止という現行譜の前提で記録したことになる。その不自然さは聴いているとよく分かること。だから、大多数の指揮者はこのテンポを採用せずに、トスカニーニやカラヤンの採用する、プレスト急速に近いアレグロを採用するのだろう。アレグロ・コン・ブリオというイタリア語は、活気、熱気をもってという作曲者指定する楽想記号であり、モデラート中庸に近くアレグロ快速なテンポを設定することは極めて、意味深い・・・・・