千曲万来余話その561~「B氏Vn協奏曲ニ長調、ステレオでの良い装置とは・・・」
長らくモノラル時代が続き、ステレオの世界へと転換期を迎えたようである。1950年代ではなく2020年のこと。モノーラルというのは単一の音源であり、ステレオというのは複数の定位が感じられる世界なのである。それならば、ステレオ録音は1955年頃開発されたものではないか?ところが、定位は音域の高低でもって基準化されたのである。左側高音、右側低音。オーケストラでいうとヴァイオリンに対してチェロ、コントラバスが対称化された世界がステレオとしての基準となったといえる。それは容易な感覚判断であり、管弦楽でもその基準が暗黙の大前提となったのである。
ステレオ装置のグレードアップの一つに、ステレオ定位の明確化がある。どういうことかというと、左右の対称と中央の三点による3次元での立体化すなわち奥行きの形成だろう。モノラル録音でさえ、管弦楽における楽器の距離感、左右ではなく奥行き感は有り、マイクロフォンはその感覚を録音していて、二つのスピーカーによる再生は、実体感を与える。だから左右スピーカーの中央には空間を必要とする理由が有り、オーケストラの管弦打楽器による位置感覚は、ステレオ録音の肝といえる。
オーディオのグレードアップとは、良い音の追究であり、良い音とは音楽の喜びと密接な関係を持つ。音の入口、胴体、出口で、カートリッジというピックアップとプレーヤー、そしてコントロール・プリアンプ、パワーアンプという胴体、そしてスピーカーという音の出口で成立する。このたび、胴体のアンプでアースの採り方、抵抗器、コンデンサーの交換を図り、ステレオの定位の改善、向上させる機会となった。札幌音蔵社長KT氏は三日間かけて実施し見違えるほどのシステム向上を果たした。コントロールアンプという胴体部分の改善だった。手仕事において、はんだ付けひとつで音は変わり、オーディオ工作派の方なら経験おありのことだろう、要注意の世界である。
エードリアン・ボールト1889.4/8チェスター(イングランド北西)生まれ~1983.2/23ファーナム(ロンドン北西)没は、オックスフォード大学卒業、1913年ライプツィッヒ音楽院留学アルトゥール・ニキッシュに師事している。翌年帰国1918年にはホルスト惑星を初演している。英国ではビーチャム、サージェント、バルビローリなどの活躍に後塵を拝して、メジャーデビューは1966年にEMIレーベル録音が転換点といわれている。それまでには米国マイナー録音が多数であった。
1971年コピーライトのB氏作曲Vn協奏曲ニ長調作品61、独奏者はヨゼフ・スーク1929.8/8プラハ生れ~2011.7/6同地没、曽祖父は、アントニン・ドボルジャークである。オーケストラは、ニューフィルハーモニア管弦楽団。レコードに針を降ろすと、冒頭はティンパニーによる四音の連打、それに続くこと第1Vn、そして第2Vnという連なりとなる。まさに楽器間の対話であり、そして呼応がその位置を主張している。作曲者ベートーヴェンは、その効果的な配置を要求しているといえるだろう、言葉で指図せずとも。
エードリアン・ボールト卿は指揮していて、プロデューサーはクリストファー・ビショップ、バランス・エンジニアはマイケル・グレイというスタッフで、ASD番号の名録音は記録された。
名評論家三浦淳史はボールト卿の言葉として、指揮を執るということは船の船長になるようなものだと思う、石油のドラム缶といっしょに転げまわる理由は全くない、と紹介している。そこには、指揮者の心得で的確な楽器配置という前提があることは忘れてはならないだろう。指揮者の対面に必要な楽器としてティンパニーだというのは作品67、交響曲第5番でも証明されているのだし、それを実際に取り入れない指揮者は再考をする必要があるのだろう・・・