千曲万来余話その554~「ブーレーズ作曲ピアノソナタ第2番、演奏家ポリーニという知性・・・」
梅雨前線の停滞により九州地方の豪雨で被災された皆様にお見舞い申し上げます。人吉市では1965年の洪水と同じくらいの水位を電柱は示していたという。大変な災害に際しくれぐれも生命第一でお過ごしされること祈念します。
現代音楽というと、日本人作曲家としては一柳 慧(とし)1933.2/4兵庫県神戸出身で、1954~57年ジュリアード音楽院留学、1959年にジョン・ケージ1912.9/5ロスアンジェルス生~1992.8/12ニューヨーク没の講座を受講、以来、不確定性の音楽で図形楽譜の使用など1961帰国して以来、洗礼を受けたことになる。二十世紀音楽研究所主催、第一回現代音楽祭―前衛音楽特集、紹介に努めている。この時代の象徴的な作品に1952.8月にウッドストックで発表された「4分33秒」がある。第一楽章33秒、第二楽章2分40秒、第三楽章1分20秒、ピアニストは楽器の蓋の開閉をするだけで、作曲者の意図はその間、耳を澄ませよという。
歴史上、初めて無音を聴き、演奏行為「休止」と、聴く行為の一体化を発表したことになる。その時、演奏会場の音を聴けという「作品」。これは究極の音楽になるといえる。ちなみに273秒というのは、絶対零度を意味する。
オリヴィエ・メスィアン1908~1992に師事した、ピエール・ブーレーズ1925.3/26仏モンブリン生~2016.1/5独バーデンバーデン没は1948年にピアノソナタ第2番を作曲している。これを演奏しているのはマウリツィオ・ポリーニ1942.1/5ミラノ生まれ。1978年来日時に札幌厚生年金会館ではベートーヴェンの後期ピアノソナタ三曲を取り上げている。白面のピアニストが、演奏の高揚感でまっ赤になりながら集中しその緊張感に驚いたことだった。レコードでは、アポロ的で客観的、冷静な演奏スタイルに接していただけでは、知り得ないポリーニ芸術に感銘を覚えている。
ポリーニは1960年国際シュパンコンクールのグランプリ獲得以来、公の場から離れていたものの1968年ロンドンのコンサートから再起している。ショパン、モーツァルト、ベートーヴェンのほか、シューベルト、シューマン、ブラームス、ドビュッスィ、シェーンベルク、ストラヴィンスキーと多彩なLPレコードをリリース。とりわけ、ブーレーズやノーノのレコード発表は現代音楽、コンテンポラリー同時代の音楽と意欲的な取り組みをしているところなど、並みの演奏家の水準を超えている。
ブーレーズというと指揮者で有名なのだが、初来日は1970年5月、ジョージ・セルとともにクリーブランド管弦楽団を指揮していた。大阪万国博の合間に二人は長谷寺、室生寺を参詣している。彼の指揮した「春の祭典」のLPレコードで、1963年フランス国立放送管弦楽団とのセッションは熱気を記録していて孤高の名盤といえる。
ポリーニの演奏したソナタ第2番はカップリングがウェーベルンの「ピアノのための変奏曲作品27」(1928)、演奏時間9分弱の音楽。シェーンベルク、ベルク、ウエーベルンという3人はウィーンの作曲家で12音音楽ドデカフォニーの開祖、新ウィーン楽派。1920年以降、シェーンベルク作曲、五つのピアノ曲の第5曲が最初の無調音楽の作品といわれている。
ブーレーズのソナタは、絵画で云うと点描の趣であり、メロディーライン旋律線やハーモニー和音、ダンスのようなリズム律動とは、無縁の音楽になっている。四楽章構成、極度に急きょで5:57、レント遅く11:08、モデラート中庸、ほぼヴィーヴォで2:10、ヴィーヴォ10:00。この音楽には、音楽の三要素は導き出されることなく、音の三要素という音量、音高、音色を感じ取ることになる。音楽はちょっと聞きではなく、深い鑑賞を必要とする…