千曲万来余話その513~「シューマン、ダヴィット同盟舞曲集作品6、ギーゼキング演奏にふるえる・・・」
ロマン派の音楽、すなわち1815年以降にドイツを中心に起こったが必ずしも19世紀音楽全体を総括するのは妥当ではない。むつかしいものがある。ピアノという鍵盤楽器による器楽から、リート歌曲や歌劇オペラにいたるまで多種多様の音楽があり、クラシック古典派音楽の影響を受けてそこから派生した、よりドラマティックな音楽といえようか?1870年以降は後期ロマン派ともいわれている。いずれにしろ、ベートーヴェンが最初に内面を表現してから、飛躍的に展開させた旗手が、ロベルト・シューマン1810~1856でピアノ曲、三重奏曲、四重奏曲、五重奏曲、交響曲や歌曲、歌劇などなど、特に1840年は歌曲の年ともいわれクララ・ヴィーグとの結婚により創作の発展をみている。
ダヴィット同盟とはシューマンの虚構世界で、クララとの結婚式前夜に語りあった同盟員の様子を描写、18曲から成り1837年作曲、フロレスタンとオイゼビウスというシューマンの分身が語り合い、舞曲集といっても、舞曲は第一曲クララのマズルカのみで新しい音楽の理想を追求する。特に第18曲ハ長調の最低音で閉じられる終わり方は、聴くとふるえる。
ワルター・ギーゼキング1895.11/5リヨン生れ~1956.10/26ロンドン没、英SAGA盤放送録音1963年コピーライトのプレスを聴いた。彼の愛奏したピアノメーカーはグロトリアン・シュタインヴェーグ、正規録音ではモーツァルト、ドビュッスィ、ラヴェルの全集が有名。楽器メーカーのスタインウエイとは、ドイツのハインリヒ・シュタインヴェーグが1853年、アメリカに移住して成功したもの。スタインウエイ&サンズはその流れ。イギリス式アクションは音量的にみて華麗といえる。なお、ドイツ式・ウィーン式のハンマーが鍵盤の上にあり跳ね上げ式はベーゼンドルファーで、このタッチはピアニストによる依存度が高いといわれていて、多数派をしてスタインウエイに譲るところである所以だろう。
ギーゼキングは1920年ベルリン・デビューを果たし、ベートーヴェンのソナタ全曲演奏会を経験し23年ロンドン、26年ニューヨーク、28年パリでそれぞれデビューしている。1953年には初来日、演奏会では完璧な記憶力を有して暗譜主義を貫いている。その演奏スタイルはノイエザハリヒカイト、新即物主義ともいわれていて、現代主流の演奏スタイルの源流とされている。彼以前の巨匠たちは、作曲家直伝の音楽で、テンポのアゴーギグ緩急法は、自由自在でそれが度を過ぎると、端正な音楽スタイルへと展開することになる。それが新即物主義になる。ピアニストの演奏は、一定のテンポ感が尊重されていく。それでも、ギーゼキングのシューマンでは、テンポのギアチェンジが面白い。
演奏がエネルギッシュ情熱にあふれていて、勢いが一層の力感を発揮していて、並ではない。その上に、音量としても自由な増減が有り、パワーマックスの開始からして度肝を抜かされて、一本調子ではあらずすかさず穏やかな表情に変化する芸術は、聞き手の心をつかみ、引き寄せる展開にはワクワクさせられること請け合いである。それは、ベートーヴェン、リスト、シューマンという一連のピアニズムの成果が見られる。巨匠性、妙技性、精神性が三位一体となり、ギーゼキングが体現し披露する要。
モノーラル録音ということでも、決して音が悪いことなくてダイナミックスレンジは広く、ノイズもまるで感じられない。なにより、ステレオ録音の上を行くのは、エネルギー感である。キレイな音というのは雑音が無いだけで、空気感すら無い。演奏が発揮する躍動感をいかに再生するかは、モノーラル録音の方に軍配を上げざるを得ない。ピアノフォルテという鍵盤楽器は、美しいのみでなく、その真実により聴くものを捉え離さなくて、ふるえる・・・