千曲万来余話その498~「バッハ、無伴奏Vnソナタ・パルティータを記録したスージー・・」
晩さん会というと、管弦楽の演奏がふさわしい。特に弦楽アンサンブルは最少人数でコントラバスが一人とすると、チェロとヴィオラは二人ずつ、Vnが第一と第二で四人ずつの場合、合計十三人編成になるる。モーツァルトのセレナードでは、打楽器を必要としない。ここに、クラシック音楽特有の特徴があって、ドラムスセットは出番が無いところ、ポピュラー音楽と一線を画す。 ということは、演奏自体に、メロディー、ハーモニーそしてリズムの役割分担がなされていて、第二Vnとアルト=ヴィオラが受け持っているところ、実に面白いといえる。このことは、楽器配置の意味とも重なっていて、最低音域と、Vn旋律のあしらいを考えた時、Vnダブルウィングというキーワードが時代を象徴することになる。チェロとアルトこそ、中央に配置されると、俄然、アンサンブルは精気を発散するところが味わいと云えるだろう。さらに、ヴァイオリンという楽器の構造こそ、チェロとアルトと相違する所以であり、そこのところ、ヨハン・セヴァスティアン・バッハ 1685~1750はBWVバッハ作品番号1001~1006で無伴奏のソナタとパルティータを作曲している。1720年頃ソナタの楽譜浄書が記録されていて、アントニオ・ストラディヴァリ1644~1737と時代が重なっているのは興味深い。三曲のソナタ、楽章数は四曲、パルティータは六曲前後で前奏曲、舞曲から編成されている。
LPレコードを収集していると、正規盤とプライヴェート盤の違いの他に、メジャーとマイナーレーベルの違いにも出会う。ドイツでいうとインターコード、ベーレンライター、ムジカフォンなどなど。このマイナーレーベルに登場する女王に、スザンヌ・ラウテンバッヒャー1932.4/19アウグスブルク出身がいる。彼女はヘンリク・シェリングに薫陶を受けているから、カール・フレッシュの孫弟子と云えるかもしれない。
無伴奏ソナタ第三番ハ長調BWV1005はとりわけ、名演奏といえるできばえのレコードになっている。並みいる名演奏の歴史の中でも抜群のディスクだろう。肩の力こそ抜けていて、その上で格調高く歌い、充分な鳴りっぷりの演奏が記録されている。これは、すべてのレコードに云えるのではなくて、このスージーのみの偉業と云えるのである。
ヴァイオリンの演奏と云うと、意外に力が込められていて、弾く方も聴く方も肩に力が入るのであるけども、ここでの演奏は、肩透かしをくう。力んでいないことがすぐに分かる。すなわち、楽器構造としてスイッチ切り替えがあって表板と裏板の振動が発揮されるのではなく、演奏者による魔法マジックでもって、そこの切り替えが図られるのだ。不思議な技術、それを身に着けてこそ名人のクラスと云えるだろう。ちなみに、聴く方もこのことに気が付くかつかないかで、趣味の世界が広まるというもの、第二ヴァイオリンが指揮者の右手側にシートする意義、客席に裏板を向ける意味が生まれる理由がそこにあるのである。
スージーは、既にその記録を果たした女王であり、マイナーレーベルといえども、日本の企業がリストに漏らしているだけで、コレクター冥利に尽きるドイツのLPレコードと云えるだろう。価格と云うと破格であるのだが、貨幣対効果は、支払った人にしか分からない世界でたとえていうと、ガラス玉とダイヤモンドの違い、見た目ですぐ判断が付くというものである。至福の時間を手にするか否かは、清水の舞台から下をのぞく思いがするだろうけれど、盤友人は、それを愉しんでいるかもしれない。満月は一年間で十二回出現するのだけれど、それくらい、否、それ以上満喫できるのがLPレコードの世界である・・・