千曲万来余話その486~「バッハ、無伴奏Vnソナタ第三番、裏板を鳴らすとは・・・」
バッハという名前、日本語になおすと小川という意味になる。そこでベートーヴェンは小川ではなく、大海 ダス メール(という中性名詞)とよぶべきだったとか洒落ていた。16世紀の作曲家ファイトを主要家系としてヨハン・セヴァスティアン・バッハ1685.3/21~1750.7/28は、先妻マリア・バルバラ1684~1720の方からウィルヘルム・フリーデマン・バッハ1710~1784、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ1714~1788、後妻アンナ・マグダレーナ・ヴィルケ1701~1760方からヨハン・クリストフ・フリードリヒ・バッハ1732~1795、ヨハン・クリスティアン・バッハ1735~1782という音楽一家を形成している。一説によると現在、家系は絶えているとかいわれている。ヨハン・クリスティアンは、父50歳の子どもで「ロンドンのバッハ」ともいわれ、8歳のモーツァルトに影響を与えているように前古典派ともいわれる系譜に当たる。
大バッハは35歳のとき、先妻に先立たれて、宮廷楽長は四人の子どもと悲嘆にくれることになった。家庭生活の激変を経験し、芸術の転換点を迎えている。無伴奏ソナタをこの頃、浄書譜の完成をしている。現代でもヴァイオリニストに演奏されるのであるけれど、当時のバロックVnとは構造は異なる。ソナタは四楽章構成が基本で、パルティータは舞曲の構成で、アルマンド、ブーレ、メヌエット、サラバンド、シャコンヌ、ジーグなどなど五~六曲ほど。
BWVバッハ作品番号1005、無伴奏Vnソナタ第三番ハ長調は、アダージョ、フーガ、ラルゴ、アレグロ・アッサイの四楽章で構成されている。この曲は冒頭から重音奏法という技法で開始される。一回の弓さばぎで音を重ねるというポリフォニー複旋律音楽の典型的スタイル、楽器の一丁で二つのメロディーラインを形成する等、和声音楽のピークを成している。
ヨゼフ・スーク1929.8/8~2011.7/6生没プラハの曽祖父はドヴォルジャーク。つまり大作曲家のひ孫にあたるサラブレッドで同姓同名の祖父も作曲家というから少し複雑。大家コチアンの弟子にあたり、英才教育を受けプラハ音楽院を卒業してアンサンブルを編成して、さらにソリストとしても活躍していた。澄み切った美しい音色、確かな技巧に基ずく歌謡性ゆたかな演奏を披露して多数のレコードを残している。EMIから無伴奏Vnソナタ、パルティータ1970年録音をリリース、とりわけソナタ第三番は特筆すべき完成をみている。
第一曲アダージョは、どれほどの名手でも難曲中の難曲、手ごわい作品で第二曲のフーガは、楽器の裏板を鳴らすという魅力的な作品である。
裏板とは何?という疑問になるのだろうが、アルト、チェロは中低音域を担当するところ、ヴァイオリンは高音域担当になる。それでは、アルトと構造の大きな違いはどこにあるのか?というと、表板と裏板を繋ぐ魂柱こんちゅう、ハートポストこれが弦の振動を表と裏に伝える仕組みで、四本の弦の音域に従い、音響が別けられている。スイッチの切り替えがあるわけでなく、演奏者の技量により表現が可能となる。盤友人はオーケストラの演奏で第二ヴァイオリンのことによく言及するが、楽器は同じものでも、演奏する音域により第二Vnは裏板を鳴らす演奏を担当している。すなわち、舞台ステージの指揮者右手側の袖に座席して裏板を響かせるのが本業と云えるのだが、ステレオ録音では第一と第二をf字孔を同じ向きに揃えるという多数派を形成している。
この第二曲だけ、裏板を客席に向かせるように演奏すると面白いと思われるのだが…余談はさておき、この曲の醍醐味は、裏板をどれだけならせることができるかで、出来栄えは決定的になる。名手スークはその偉業を達成したといえるだろう・・・