千曲万来余話その484~「モーツァルト、ピアノ協奏曲第22番、華麗な管楽器奏者は・・・」

最近の夕食に焼き魚は? というと、鰊である。数の子がもてはやされるのだが、家庭には白子入りのものが多い。昔は生臭くて敬遠したものであるけれども、今や少し焼きをしっかりさせると美味な触感でおいしくいただける。メスは卵を抱えているけれど、オスはそうでないために白身の肉の味は美味なように思われるけれども、みなさんは如何に食されているだろうか?オスとメスの違いや如何に!同じかもしれないのだが、気の持ちようで味わいというもの、違いはあるのでなかろうか?盤友人はオスをおいしくいただいている。
 M氏はピアノ協奏曲を第27番変ロ長調K595まで作曲しているが、第22番変ホ長調K482は、1785年12月に作曲している。弦楽器は第一と第二Vn、アルト、チェロ、コントラバスという五部編成、管楽器はフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、そして打楽器はティンパニーというもので大きい編成である。モーツァルトは、当時、フルートという楽器は音程が甘く割合、きらっていたとかいうことである。そうでなくても、クラリネットも編成に加えたり、はずしたりしていて、その使用方法は一様ではない。意外にもフルートの音型は十六分音符を割とひんぱんに使用していて、演奏するうえでやっかいな音楽に仕上げている。第三楽章ロンドなどを聴いていると、フルートとファゴットのかけあいなど、むつかしい音型を展開していて、M氏の独特のフモールを感じさせることになる。
 第21番ハ長調K467の第二楽章アンダンテは、飛び切り優雅で美しくも短く燃え、という邦訳タイトルの映画音楽で有名になっている。それは、同じ年の三月に作曲されていた。シンプルは究極の洗練であるという言葉があるように、モーツァルトのメロディ旋律は、天与の才能から生まれた音楽である。凡百のメロディーはあるけれどもこのピアノ協奏曲ほどに料理された旋律は、この世に無いとまで思われる。29歳のM氏は、ハイドン・セットと呼ばれる弦楽四重奏を作曲するなど、活動のピークを迎えていた時代であり、その六月には歌曲リートのすみれ、が作曲されている。年表を見ていると、その頃、父親はフリーメイソンに入団(四月)とあり、なんらかの影響はあることだろうと思われる。
 イングリッド・ヘブラー女史は1966年、コリン・デイヴィス指揮のサポートを得てこの曲を録音している。彼女はスタインウエイを愛用していて、ロンドン交響楽団、アルチェオ・ガリエラ、ヴィトルド・ロヴィツキーらの指揮により、全集を記録している。使用したピアノも制作年代が異なり、音色も微妙に変化しているのが聴いてわかる。スタインウエイと一口にいっても、味わいは異なる。
 この曲は管楽器の演奏が、華麗で、第三楽章では演奏技術の巧拙が、聴いて取れるというものである。特に、フルート奏者、すこぶる付きの名手、一体それは誰? というと、録音データを知ると理解できるのである。1969年9月からカラヤンがベルリン・フィルに招聘した人物、ジェイムズ・ゴールウエイであろう。1973年NHKホールでの映像を視聴したことがあるが、首席フルート奏者は髭をたくわえたジミーであった。滅茶苦茶テクニックが優秀で、なおかつ、一音耳にしただけで彼と分かる演奏者はめったやたら存在するものではない。66~69年までロンドン響に在籍し、それがきっかけでベルリン・フィルに移籍している。まさにジミーがM氏の当時活躍していたら、フルートは音程が悪い楽器という不名誉の評判は、なかったことだろうと云える。彼の演奏を耳にすると、心踊らされて、幸せになること、大げさな言い様でないことはこの録音が証明することだろう。