千曲万来余話その466~「田園的気分、快くて最適なテンポのP・モントゥー指揮ウィーン・フィル」
その夜のコンサート、舞台正面にはティンパニーが四個二対、そして隣にバスドラム、さらに一対のティンパニーがずらり、下手にコントラバス八挺、ステージの配置はVnダブルウィング。盤友人はチラシの写真から予想外というか、指揮者は両翼配置型採用者だったのでずっと疑心暗鬼、それでスッキリしたものだ。開始前に主催者がマイクで、指揮者は札幌で転倒して右足首骨折、しかし、指揮は椅子に腰かけてするとのことだった。聴衆一同驚いたものの安心して、音楽会に臨んだ。 演奏会のメインは、ベートーヴェンの田園交響曲、演奏会後半は舞台中央に四挺一列、隣にティンパニー二個一対というシンプルなもの。一曲目はベルリオーズ、歌劇トロイ人から王の狩りと嵐の音楽だった。演奏を一聴して、管楽器のアンサンブルは、男声コーラスのような感じの秀逸で、抜群の性能、もちろん四人の打楽器奏者たちは、マレット(ばち)を使い分けて繊細な音色の表現にこだわりを見せて、世界をカラフルな表現に成功していた。何より、バッソン(バスーン)の二名ともクラリネットとの合奏が精密で、特に、首席は音楽会の中心、演奏会の要に居たような感じだった。アフリカからウィーンに飛来した渡り鳥の鳴き声を模したともいわれるターリラ、ティーララタッタ、ターリラリララーという旋律も、印象に残る。オーケストル・ド・パリは、緻密な演奏を披露する世界を代表するオーケストラの一つと云える。
43歳の若者指揮者は、克明な指揮振り、弦楽器奏者たちの信頼にこたえる見事なもので、テンポの設定は割と軽快で、小気味よい感じだ。B氏の交響曲は、速いテンポや、ゆったりの重た目とか、その中庸を行くものと、三通りの音楽が展開される。田園も、快速でスポーツカーに乗り到着したような気分とか、正反対にゆっくり自動車を運転して到着した気分とか、そのどちらとも違うテンポの採用か、などと演奏にはテンポの設定は音楽観表明にきわめて重要な要素である。ストラヴィンスキー春の祭典、ラヴェルのダフニスとクロエを初演した指揮者ピエール・モントゥー1875.4/4~1964.7/1は、前期にフランス・パリで活躍して、後期はドイツやウィーンで活躍、晩年にはロンドン交響楽団を指揮するなどヨーロッパで活躍した指揮者。もちろん、サンフランシスコや、ボストン交響楽団との録音も名演を記録しているし1963年には来日を果たしている広く人々から愛された指揮者と云えるだろう。
1958年ウィーン・フィルと記録した田園は、モントゥー型ともいえるVn両翼配置でありつつチェロ、コトラバスは上手配置のものである。第二ヴァイオリンというのは、楽器がVnでありつつ演奏を受け持つ音域は、楽器の裏板が音響として重要な演奏をするものである。近代の多数派の配置は、Vnのf字孔といって、表板側をそろえる配置である。1980年代後半から復活の傾向を見せたものがVnダブルウイングである。日本では、フランツ・コンビチュニー指揮ライプツィヒゲバントハウス管弦楽団、エウゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団などが披露していた配置、音楽関係の評論は、その音楽的価値を評価することは皆無というか、評論家集団が議論することは無かった。最近の指揮者の中で、時代としてこの配置採用が頭角を現している。上手にアルトと第二ヴァイオリンというのは、内声部が明瞭でB氏の作曲意図は明快である。この事実に気が付くか否かで指揮者の対応は、慣れを重要とするか、伝統回帰かの二者に分かれる。
ウィーン・フィルの音色は親しみやすくて、ご機嫌な田園交響曲を展開する・・・