千曲万来余話その465~「コダーイ、無伴奏チェロ曲作品8、オーディオとは何か ?」
オーディオという趣味の世界で、人間関係という要素はきわめて象徴的である。情報の伝達は高い方から低い方へと流れるのではなく、引力といっても良い要求度の具合により、推移するものらしい。AさんとBさんがいた時、プライドというものはそれぞれにあるだろう。Aさんは趣味人で経験が豊富、Bさんは他者に対し人を見て発言するタイプ、初めてBさんがAさんのシステムを判断して、お世辞を発するでもなくあたりさわりのない感想を述べるのだが、盤友人に対してAさんのシステムへの評価は、ただ一言、同軸のダブルという発想には疑問がある、という根本問題についてであって、彼の前で直接発することはなかった。それは、その後も続いた状態である。すなわち、Bさんの一言をAさんが受け止めた時、Aさんのシステムは始めから組み立てなおさなければならないというアドヴァイス的な感想なのだから、BさんはAさんに対して普通に発言することなく、あたりさわりのない会話に終始する。AさんはBさんから貴重な判断を受けていない状態のままなのである。これは決してBさんの責任ではなく、Aさんの人間関係に対する結果に過ぎないから、本当の所Aさんの態度いかんに関わる、あるいは、人生哲学による結果といえるのだろう。
本当の所という発信、オーディオでいうと、モノ―ラル、ステレオという録音方式に対する人の受け止め方で、モノーラルよりステレオの方が音は良いという価値判断がある。これは、根本問題として、その人のオーディオ人生における、経験の深さに比例する。すなわち、モノーラルでも素晴らしい録音があるという認識を発信できるか否か?それは、オーディオの世界の物差しとなる。そんな録音の一枚が、コダーイ・ゾルタン1882~1967の無伴奏チェロ・ソナタ作品8、独奏者ヤーノシュ・シュタルケルによるモノーラルLPレコードである。1950年録音シュタルケル1924.7/5ブダペスト生まれ~2013.4/28ブルーミントン米国没、26歳の時の演奏。コダーイは二十代でバルトークと親交があり、民俗音楽という世界を伝えた作曲家にして教育者でもあるキーパーソン。コダーイシステムというのはハンガリー・ブダペスト音楽院で伝統的教育システムのことである。和音感、リズム感そして旋律など、民俗音楽に対するアナリーゼ解析で、ヨーロッパ芸術の伝統に樹立した学習システムであり、その創始者。
1915年の作曲、楽譜発行は21年になる。1914年にサラエボ事件が発生し、それが引き金となって第一次世界大戦への端緒となったことは、押さえておく必要がある。なにも、戦争と音楽を結び付けるつもりも無いのであるのだが、コダーイの音楽を鑑賞する時に、知らないことは片手落ちでないかというもので、知ることは鑑賞、芸術受容の基本的態度である。たとえば、モーツァルトの歌劇フィガロの結婚とフランス革命は同時進行の世界史であることには、注意が必要であって、ベートーヴェンの音楽が市民革命を押さえないで語ることは、むなしい事なのである。
チェロ独奏ソナタは、激しいテンションの音楽でもって開始される。評論の言葉に、弦をこする松脂が飛び散るようだという評があったことを記憶している。三楽章の形式で、演奏時間28分ほど。
ただ単に楽器の胴鳴りを再生する時、オーディオ評論家は、これこそレコード再生の醍醐味であると、かならず、評価するLPレコードである。アナログ録音にこだわりを持つ趣味人は、一度、再生を試される事、お勧めする。これを経験することなく、アナログを語る御仁はマユツバ!この世は平らにできているという感想をもらしているようなもので、地球こそ球体の物体なのである・・・