千曲万来余話その463~「シューベルト:ピアノ五重奏曲・鱒、ステレオ的配置の条件」
室内楽で楽器同士の距離感、空気感が生まれると極めて好ましい感覚になり、音場再生で楽器定位、距離感の問題はオーディオの一つの課題である。
ピアノクインテット、五重奏曲というのは楽器五種類で、ピアノと弦楽器四種の作品。シューベルトのイ長調作品番号114ドイッチユ番号667は、五楽章から構成されている。第四楽章はゲーテの歌詞による歌曲、鱒の主題と変奏で有名な作品。弦楽器のそれは、ヴァイオリン、アルト、チェロ、コントラバスという編成。なんといっても、コントラバスの音はオーディオ装置の威力を発揮するに格好の音楽でオイロダインにはヴァイオリンの高音域のみならず、低音域メロディーラインの安定感再生のチェックソースとして、これ以上の音楽は無い。
これまでの音楽評論は、この程度でお仕舞いなのだが、盤友人は、これから話が始まる。ピアノとコントラバスは、どのように配置されると面白いのかなあと、いつも考えているのだ。すなわち、市販されているレコードはほとんど、ピアノが左スピーカーに定位して、コントラバスは右スピーカーという具合なのである。みなさんは、ヴァイオリン、アルト、チェロ、コントラバスというように配置して何の疑問も持たれていないのであるのだが、それは、ステレオ録音において、左右の感覚の他に中央という音場感にグレードアップしてから、疑問が湧くものなのである。すなわち、ピアノの楽器配置は左なのか、中央かという選択の幅が広まる。ピアノが左に有るとき右にコントラバスというのは、自然な成り行きなのだが、意外と、弦楽器が手前で中央にコントラバスという配置にも好ましい感覚はある。
ここで、指摘しておきたいことは、中央のステレオ感覚である。何を言いたいのかというと、盤友人は以前から弦楽三重奏でチェロが中央にすると座りが良いという指摘をしていたことである。だから、向かって左側にコントラバス、右側にピアノを配置するのはいかがであろうか?という提案である。これに近い感じは、TELDECのデジタル録音LP1981年6月ウィーンに有った。コントラバスはルートヴィヒ・シュトライヒャー、アルトはアタール・アラッド、ウィーン・ハイドン・トリオの演奏である。若々しい演奏で、エネルギッシュ、きわめて小気味よい印象を受けたものである。コントラバスは中央に有るのだけれども、右スピーカーには無いところが良いのだ。左スピーカー、コントラバスとヴァイオリンとして、中央にはチェロ、右スピーカーにアルト、ピアノという意表を突いたステレオ録音に出会いたいものだ。
コントラバスの位置を左スピーカー側にこだわるのには、訳がある。楽器の弦を、よくよく眺めていると、向かって左側は低くて右側は高音域のものなのである。すなわち、客席から舞台を眺めて、下手側からコントラバス、チェロ、アルトという具合に整列することは、理にかなったこと、上手側が高音域というか、ピアノが配置されるのは自然と云えるのではあるまいか?ということなのである。コントラバスの土台と右スピーカーからピアノの音楽が奏でられるのは、落ち着きが良いのだ。★ステレオ録音の歴史を眺めると、左側が高音域で、右手側は低音域楽器というのは出発であったことは、まちがいない。ところが、ピアノの鍵盤を想像するとよくわかるのだが、左手で低音を受け持ち右手側は高音域というのが自然だろう。だから、舞台左側にコントラバス、中央に弦楽トリオのVn、チェロ、アルトを並べて舞台右手にはピアノを配置しピアニストは首を右側に向けると弦楽器奏者達のアイコンタクトは可能であって、逆に音量のバランスをとることに、効果的な配置なのである。これからが愉しみ・・・