千曲万来余話その438~「ラヴェル作曲ボレロ、歴史上最速演奏を指揮したマゼール」
札幌は今、PMF太平洋国際教育音楽祭の開幕を迎えている。1990年レナード・バーンスタインの提唱により実施された。彼の最期に企画されたプログラム、当初は北京が予定地であったところを事情により、札幌市に白羽の矢が立ったという。そのPMFステージに招かれながら実現を果たせなかった指揮者がロリン・マゼール1930.3/6~2014.7/13ヴァージニア州キャッスルトン自宅で没。彼はUSA国籍取得していたロシア出身両親の元、フランス、パリ近郊のニュイーで生まれた。1938年頃、ロスアンジェルス・フィル准指揮者ウラディーミル・バカレイニコフの指導でピッツバーグに転進したその後も彼に指揮法を学ぶ。絶対音感をもった神童として教育され39年ニューヨークで指揮者としてデビュー。1960年にはバイロイトでアメリカ人指揮者として初めて舞台に立つ。それ以前には、二十代でベルリン・フィルとのレコーディングキャリアを残しているし三十代の仕事としては、ウィーン・フィルを指揮してチャイコフスキーとシベリウスの交響曲全集を録音している。
マゼールは、72年にはクリーブランド管弦楽団をジョージ・セル後任として音楽監督に就任。82~84年には、ウィーン・フィル音楽監督を担当、ニューイヤーコンサートの舞台には十回登場し、バイエルン放送交響楽団、ニューヨーク・フィルの音楽監督を歴任し2008年2月には平壌公演を果たしている。2012年ミュンヘン・フィル音楽監督に就任し2014年に健康上の理由から辞任、アメリカに帰国していた。1960年代のベルリン放送交響楽団時代からフィリップス録音や、DG、DECCA、EMI、CBSソニーへウィーン・フィルとの録音でマーラー交響曲全集など、余人に真似できない金字塔をうちたてている。
1971年、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団と、ラヴェルの管弦楽曲を録音、その一枚がボレロ。一定のリズムパターンを小太鼓が叩き続けて、340小節ほどの音楽、計算するとタンタカタンタン、タンタン+タンタカタンタン、タカタタカタという繰り返しで4066個ほどの音符を奏者は叩く。このパターンでフルート、ハープ、管楽器、弦楽器と装飾を加えAという音型を二回独奏楽器を変えて演奏、Bパターンを同様に二回繰り返す。このまとまりを四回繰り返して、16パターンで最後にAとBをフルオーケストラで演奏して大団円となる。作曲者自作自演のものは、16分かかる程度のテンポ、速いテンポは、トスカニーニで13分くらい。
ミュンシュは、56年ボストンSOと13:50、62年同じく15:01、68年パリ管弦楽団と17:04という録音を残している。カラヤン先生66年DGベルリンPO録音は16:09、77年EMIベルリンPO録音は16:07、1985年DGデジタル録音は15:45というタイミング。マゼールは、71年のニューフィルハーモニアで12:58という録音を残した。
フルートからクラリネットに同じ音型が受け継がれるとオーケストラの音色に変化が与えられる。特に、クラリネット奏者が少し変化を与えると、続く独奏者たちが、それを真似したりなどすると、微妙な遊び心を味わえることになる。その時、指揮者は一定のテンポを維持するだけで、強弱も指定するのは彼の力量に比例する。ここで問題になるのは、その影響力だ。指揮者の意図が前面に出ると、白けてしまうことが多い。演奏する奏者の主体性こそ聴いている者にとって楽しみなのであり、指揮者が前面に出るのは、印象として失敗した演奏の典型。なぜなら、音楽の神髄は、管弦楽にあるのだから指揮を聴いているのではあらず、指揮している演奏の音楽こそすべてなのである。その点でマゼールは、断然抜きん出た記録を残したといえる・・・