千曲万来余話その409「B氏弦楽四重奏曲第12番変ホ長調作品127、後期傑作群の劈頭をかざる・・・」
三月二日、大学生による混声合唱演奏会に足を運んだ、教育文化会館小ホール。
四ステージ構成で、それぞれが若々しいコーラス、聴いていて勇気を吹き込まれるような音楽で、演奏の原点が味わえるような感動を味わうことになる。前半三部までは男性指揮者によるもので、第四部は女性が担当していたのだけれども、ステージの風景が一変した。それまでは男性が舞台下手から先に入場して舞台上手に配置され、女性が遅れて整列する。それが、男性後列に二十名余り二列、前列女性二列で十四名という具合に並んだ。風景通り、始めは女声と男声が左右対称に展開した音楽であったのが、第四ステージは明らかに響きがそれとは、異なっていたのだ。男声の分厚い響きの前に女声の響きが繰り広げられた混声合唱に変貌していた。すなわち、それまでは女声と男声があきらかに分離、セパレイトしていた響きが、一体となって面白い響きに変化を聴かせたといえる。
女性指揮者は指揮台を外して、ピンヒールを履いていたのでロウヒールの方が良かったのにという感想は、まあ、どうでも良かったのだけれど、声部配置は思い切ったものだったといえる。きっと賢明な考えによる指揮で、コーラスに一際精彩が増したのは言うまでもない。ぶらぼうっ!それは満月夜の演奏会で、帰り道、中空に月は明るかった。
ベートーヴェンは1825年に第12番変ホ長調作品127を作曲している。弦楽四重奏曲全十六曲中、後期作品群の最初に位置する重要な作品で、第二楽章はアダージョ、マノントロッポ、エ モルト カンタービレ。幅広く緩やかで、はなはだしくなく、そして充分に歌心をもって、という楽想用語。簡潔にして明瞭、B氏の切実さが伝わる。クリングラー四重奏団、1930年頃の録音、モノーラルレコード、いうまでもなく定位やチャンネルセパレイションはないのだけれどもチェロとアルトという低声部、そして高低二色のヴァイオリンの旋律線は、くっきりと、立体的である演奏、そう数あるものではない。唯一無二の録音と言っても良い演奏である。1960年代多数ステレオ録音の主流を占めたのは左側に第一と第二ヴァイオリン、右側にアルト、チェロの低声部というもの。
このサイトで、書き起こしに混声合唱の話を披露したのは、合唱のことの他に声部配置問題、高音部の後ろに低音部を配置すると音響的にどうなるのか?という問題提起のためであった。
モノーラルレコードであっても、その録音自体、声部配置が、第一ヴァイオリンの奥にチェロ、対面してアルト、第二ヴァイオリンという音楽は、多数の弦楽四重奏と、明らかに異なる音楽であるということを、印象付けるといえる。ちなみに、クリングラー四重奏団は大ホールにおける弦楽四重奏の演奏であっても、ヴァイオリン両翼配置、中央にチェロとアルトの配置写真が残されている。
世の中では、コピーの提出問題、何をコピーしたものかで騒動を起こしているけれど、元になるものが、しっかりしていてコピーは意味があるというもの。数あるコピーを用意する意味は何も無くて、このレコード一枚の写真でもってサイト観察者の皆さんは納得が行く話となることであろう。
思えば、陽の目を見ない録音風景写真は数あることであろうけれど、貴重なソース、お蔵入りの物も多数。それらがこれから封印を解かれることを期待される。インターネットの力は、流通するペーパーを凌駕することが出来るものなのか?興味深いものがある。輸入レコードを収集していて、自由に入手できる時代に対し盤友人は、恩恵にあずかること大なのである。自由、というのは価値あるキーワード、ありがとう!