千曲万来余話その407「モーツァルト、ホルン五重奏曲変ホ長調、エラートの名盤」
モーツァルト1756.1/27~1791.12/5は、1778年3月マンハイムに立ち寄っているのだが、その3月26日、七歳のベートーヴェンは同地で初のピアノ独奏会を開催していてM氏に影響を受けたと言われている所以である。1782年にはケッヘル番号407、ホルン五重奏変ホ長調が作曲されている。
バルヒェット四重奏団と、ホルン独奏でピエール・デル・ヴェスコーヴォ、エラート録音盤は名演奏。1950年代後半のモノーラル録音である。ホルンはヴィヴラートのあるフランススタイルの演奏で、巧みな技術、豊かな歌謡性が感じられる。弦楽器はヴァイオリン、チェロそしてヴィオラ=アルトが二本のものという、少し不思議な編成である。当時、アルトの名演奏家がいたのかもしれない。いずれにしろ内声部担当で決して目立たないパート、ホルンの音域に対応している。
オーケストラはとても上手で強力です。両側にヴァイオリンが十人から十一人、ヴィオラが四、オーボエが・・・というのは、モーツァルトがマンハイムに立ち寄った時の文で、1778年頃のもの。ここで気を付けなければならないことは、両側にヴァイオリンが・・・という部分、これはオーケストラの風景で、ヴァイオリン両翼配置のものを記述していることに注意しなければならない。そのことは、ヴァイオリンが偶数の時、両側に配置されているときの両翼配置の証言に他ならない。だから、弦楽四重奏でも、舞台左半分にはチェロを中心にしてヴァイオリンとアルトが両脇で、右半分には第二ヴァイオリンとか、独奏管楽器を配置することが予想される。つまり、このホルン五重奏曲でも向かって左側には、ヴァイオリン、チェロ、アルトが配置され、右側には、アルトとホルンが配置される風景が思い浮かぶのである。
ヴァイオリンの主旋律はよくわかるのだが、アルト二本の旋律はなかなか、目立たないのではあるのだけれども、Vnの奥にはチェロが、ピッチカートでメロディーを演奏したり、中央でアルト二本が対話するのは、聴いていて楽しいものがある。ここで注意することは、Vnとチェロの間に、アルトを配置しないことであり、Vnとチェロ、そしてその右側となりにアルト二本というものである。独奏するホルンには、舞台上手配置という王道、すなわち、演奏者の右手ベル側にスペースを用意することに生命がある。
エラート盤は、モノーラル録音でチャンネルセパレーションがあるものではない。二個のスピーカーの中央に楽器は定位する。これは想像力を働かせてくれて、モノーラル録音の利点である。ステレオ録音になると、楽器配置問題が前面に出て、違和感を覚える経験が多い。その点からみても、このレコードは楽しめるものになっている。室内楽の醍醐味は、演奏者同士の対話であり、演奏の掛け合い、デリケートな味わいなのであるけれど、そこのところが実に楽しいのである。
だいたい、ホルンという楽器自体、演奏する際に、注意力を要求され、モーツァルトは大胆な旋律を描いている。ホルン協奏曲を四曲作曲していて、1782年に集中されていて、その当時、M氏は名演奏家に出会っていたことが考えられる。
英国人のデニス・ブレインはホフヌング音楽祭で、ゴムホースを使い、マウスピースだけで、楽器のように演奏していた。日本では、弟子であった千葉馨さんも実演していて、彼DBは仕事する時ほとんどアレキを使っていたねと、盤友人がサインをいただいた時に話していた。アレキとは、ドイツのメーカー、アレキサンダー社製のこと。ホルンの演奏は、ヴァルブ使用よりも、歌うように唇で音程を出し、微妙な技術そのもの、ホルン五重奏曲のレコード、数は少なくとも名演奏ばかりてある。