千曲万来余話その374「クレンペラー指揮する交響曲イタリア、オーディオの定位」
指揮者、朝比奈隆は晩年になって、これからの時代に手本となる音楽として、オットー・クレンペラーの記録を挙げていた。
何を意味しているのか、補足して指摘すると、その当時あふれていた音楽情報のスタンダードは、帝王ヘルベルト・フォン・カラヤンであって、彼が君臨するオーケストラ指揮界に、人々の大多数を形成するのは、カラヤン指揮するレコードを買っているとハズレはない、という心理が働いて、経済動向の底辺となっていたということだ。カラヤン中心にクラシック音楽は、回っていたといえる。そんな中の発言で、朝比奈は、クレンペラー指揮の音楽がやがて主流となるだろうという予言を残していたのである。
オーディオの世界で、モノーラル録音の時代から、ステレオ録音の世界へと展開を見せていたのは、多数の人の認める歴史であろう。ステレオとは何か?というと、左右チャンネル、そして中央の音像という、左A、中央C、そして右Bという定位、ローカリゼーションが成立する。盤友人の父親は今年98歳、未だに、スピーカーが二つある理由を理解していない。すなわち、それぞれ二つのスピーカーから同時に出るのは同じ音だという認識であるのだが、笑ってはいけない、人の認識というものは正しい知識が無い時、その程度のもの、大同小異なのである。
オーディオの世界、そのシステム風景写真で、中央に物が置いてある時、その人のレベルが知れるというもの、中央の意識が無いのは、それで限界があるオーディオを表わしている。
オットー・クレンベラーが指揮したメンデルスゾーンの交響曲第四番イ長調作品90イタリア、その初演がされたのは1833年5月13日、ロンドン、作曲者自身指揮によるものだった。二管編成、弦楽五部そしてティンパニーという当時としては標準的なもの。1960年2月フィルハーモニア管弦楽団により、SAXナンバーの英国コロンビア社のレコードは現在でも流通している。
イギリスのオーケストラを認識する時、ロンドン・フィルハーモニック、ロンドン交響楽団、フィルハーモニア・オーケストラ・オブ・ロンドン、ロイヤル・フィルハーモニック、BBC交響楽団などなど、歴史、特色ある管弦楽団が目白押しである。フィルハーモニア管弦楽団は、創立時にビーチャムの名前も見え、フルトヴェングラー、カラヤン、クレンペラーのビッグネイムのほかにも、イッサイ・ドブロウエン、オットー・アッカーマンや、アルチェオ・ガリエラなど、モノーラル録音時代の錚々たる指揮者達、レオポルト・ストコフスキーなどはシェラザードの名録音を残すとか、多士済々である。
ステレオ録音の礎を築いたのがオットー・クレンベラーであることは、誰も依存の無いところであろう。
クレンペラー録音の一大特色は、左右が第一、第二ヴァイオリンの対話から成立していて、中央に管楽器が広がり、その中心にティンパニーが定位していることだ。このシチュエイションをオーディオ再生の必要十分条件として朝比奈は、予言していたのであろう。左チャンネルに第一と第二ヴァイオリンが居て右チャンネルにコントラバスが配置される音楽は、もはや一時代前のステレオ観なのであって、真髄を確認するLPレコードこそは、我がクリケット・レコードに在庫している。