千曲万来余話その338「モーツァルト、ヘ長調ケッへル242三台のための・・・」
最近、喫茶店でも室内禁煙というところが増えている。愛煙家が居づらくなったように思われるが、マスターは気づかいをして、玄関の脇に吸い殻入れスタンドを設置しているのだから、そこで一服してから入店されると良い具合になっているのだ。煙草というもの、仕事の上のストレスと表裏の関係にあるから、そのストレス解消、発散の工夫をすれば良いと思われる。特に、リタイアされた方は、仕事をやめて煙草も辞める、それがなによりであろう。盤友人にはエンのない話ではある。
ケッヘル番号KVというものは、ルートヴィヒ・フォン・ケッヘル1800~77によって作られたモーツァルト全作品の作曲年代順リストに付された番号のことである。1776年2月、ザルツブルグで作曲された三台ためのクラヴィア協奏曲ヘ長調、これは、グランド・ピアノの前身である鍵盤楽器のためのコンチェルト。モーツァルト1756~91の活躍した時代では、ピアノフォルテといういわゆる現代通称ピアノという鍵盤楽器ではなくて、クラヴィーアという室内での音楽に合ったサイズの楽器で演奏がなされていた。もともと、ピアノフォルテというのは、弱い強いという音量のことで、自由自在に音量が演奏できる楽器のことを指す言葉といえる。協奏曲第4番は、アントニア・ロドロン伯爵夫人とその二人の娘のために作曲されている。三台用協奏曲のことを協奏曲ロドゥローンとも云われる。
ザ・メニューイン・ファミリーと銘打たれたLPレコード、ヘフツィバー、ヤルタ、ジェレミーそして指揮しているのがユーディー・メニューイン。1965年頃録音でロンドン・フィルハーモニック管弦楽団、ジャケット写真で中央に指揮棒構えるユーディーを囲むように3台のグランド・ピアノ、反響板とりのぞきのスタイル。上手かみてにはアルト・ヴィオラとヴァイオリン、写真の下方、チェロとヴァイオリンの姿が映っている。レコードを再生すると、左スピーカーからはヴァイオリンとチェロ、右スピーカーから、アルトとヴァイオリンの演奏が聞こえてくる仕掛けである。なぜそのように楽器配置されているのかというと、そのように配置をした方が演奏効果抜群といえるからだろう。このレコードB面は、変ホ長調K365の、2台用ピアノ協奏曲。
オーケストラ配置は、通常のヴァイオリン、アルト、チェロという形で、バース祝祭管弦楽団。指揮者左手側にヘフツィバー、右手側に第一ピアノでフー・ツォン、というように聞こえる。
これは、ジャケットの表記が、先にフーツォン、そしてヘフツィバー・メニョーインとあることによる判断で、ピアノのタッチもスピーカー右手側からは、硬質のタッチが再生されるから面白い。ピアノの音色は、木質風の倍音豊かなタッチである。オーケストラの違いにより、楽器配置も区別されているのだが、EМIの商業的配慮も考えられる。指揮者オットー・クレンペラーは、ヴァイオリン両翼配置でステレオ録音のスタイルを確立していて、同時に頑固者という印象を与えているのだが、カラヤンやベームという指揮者にはその印象は語られない。第一と第二のヴァイオリンを束ねる指揮者は、頑固者というレッテルをはられないのだが、それは、可笑しなものだろう。これからの時代、指揮者たちはいつまでも、ヴァイオリンを束ねる楽器配置にしないで、シューベルトの交響曲グレート、などを演奏してほしいものである。