千曲万来余話その319「ステレオ録音のあれこれ、ブラームス、第一番ケンペ指揮を聴いて」
音楽は生が一番良い!と、人は口をそろえておっしゃるのだが、盤友人は、さにあらずLP派。
ステレオタイプとは、紋切り型といわれるがごとく、決まり切ったことしかいわないことだけれども、既成概念を乗り越えるためには、それなりに経験を積まなければ、到達することはできない。
クレンペラーという指揮者は、ときどき、頑固者というイメージで括られることがあるのだけれど、これもその典型といえる。なぜならば彼は、ステレオ録音でも一貫してヴァイオリン両翼配置を採用し続けたからである。おおざっぱに云って、1955年以降のオーケストラ配置は、第一と第二ヴァイオリンを畳むか、左右に広げるか二通りの選択が、迫られていた。
ご存知の通り、多数派は畳むのだが、ウィーン・フィル・ニューイヤーの弦楽器配置は、最近しばらく、両翼配置を続けている。これは時代の反映というか、それを物語っていて興味深い問題ではある。1987年のカラヤン、1989、1991年のカルロス・クライバーたちがこの先鞭をつけていたのだ。ニューイヤーのみならず、その引き金はジェームズ・レヴァイン指揮による、1985年頃からのプロジェクト、モーツァルト交響曲全集録音に端緒があるといえる。
指揮者には、三通りのタイプがあって、両翼配置を採るかとらないか、というだけではなく採用したりしなかったりする派と、さまざまなのである。それは最近の録音の傾向から判断できて、採る派は、バレンボイム、ブロムシュテットが両巨頭で、メータやシャイー、ティーレマンらがそれに続いている。どちらでも、という筆頭はラトルで、ゲルギエフ、ハイティンクらが続く。
LPレコードでいうと、モントゥー、ケンペ、クーベリック達は両翼配置録音を、多数残している。シューリヒト、ブーレーズ達の1964年頃のステレオ録音では両翼配置というか、右側のスピーカーから、第二ヴァイオリンの演奏が聞き取れる。彼らの録音が、余り話題にのぼらなかった理由として、チェロやコントラバスの右側配置によるところが大きい。モントゥーのステレオ録音など一貫してコントラバスが右側配置である。
1974、75年録音、ルドルフ・ケンペ指揮するミュンヘン・フィルハーモニカー、ブラームスの交響曲全集ステレオ録音も、モントゥー型といえる両翼配置になっている。
ケンペ指揮した両翼配置ステレオ録音は、クレンペラー型、モントゥー型の両方が残されている。ロイヤル・フィルハーモニック音楽監督就任から、それには取り組まれていても、多岐にわたるのは、レコード業界からの要請によるところが大きいのであろう。クーベリックなどは、さまざまであっても、晩年では、クレンペラー型というか、モーツァルト、ブラームス、ブルックナーなどで、こだわりが見られたのは盤友人にとっても嬉しいことではある。ベートーヴェン交響曲全集では、なぜか第五番のボストン交響楽団、第二番のコンセルトヘボウ・アムステルダム管弦楽団が、そのようには、なっておらず、意味深である、というか、レコード業界の意向反映なのであろう。⑨ルドルフ・ケンペ指揮ブラームス交響曲第一番ハ短調作品68バスフ録音は、コントラバスの旋律線が弾むようで、第二ヴァイオリン群は右側で歌い、ホルン独奏は、といえば左側独奏ヴァイオリンと、対称的に右側スピーカーから歌われるように、それはそれは、はかないほどに美しいといえるだろう。