千曲万来余話その316「オネゲル、交響曲第二番弦楽合奏とトランペットのための・・・」
トマトの味を、あなたはいつ頃のものが記憶の始めとされているだろうか?盤友人は中学生で口にした頃のものを基準にしている。すなわち濃い味わいで現在、口にできるものはフルーツトマトの類のものに近い。
TV放映を見ていて弦楽器がアップで映し出されると、ほとんどのストリング弦は、スティールのものである。LPレコードで1960年代に録音されたオーケストラ演奏で弦楽器の質感と現在のそれとは、著しい相違が感じられる。それは、ガット弦の使用によるものと、そうでないものの違いによると思われる。だから、弦楽合奏の味わいは、レコード記録されたものとの違いは求めるほうが無理というものであろう。ないものねだりであることに、気をつけておいたほうが良いのである。
2月19日はシャルル・デュトワ指揮するNHK交響楽団、プロコフィエフ、ラヴェル、ベートーヴェン、オネゲル交響曲第二番というもので、素敵な演奏だった。デュトワは、1936年10月7日ローザンヌ出身で、母国語はフランス語。
オネゲルはフランス六人組の一人であり、スイス人両親の元、1892年3月10日ルアーブルで生まれ1955年11月27日63歳パリで没している。第二交響曲は1942年にザッヒャー指揮で初演。
デュトワは多分、エルネスト・アンセルメをスタンダード手本にしていると思われる。彼は一貫して弦楽器配置を、指揮者の左手側からヴァイオリン、アルト=ヴィオラ、チェロ、コントラバスという具合に展開している。これは、指揮者右手側をハーモニーの土台として舞台下手側に高音域というピラミッド型を目指しているといえるだろう。だから、ベートーヴェン第五交響曲、オネゲル第二交響曲第三楽章にあらわれる、フガートでコトラバスから、チェロ、アルト、第二ヴァイオリン、そして第一ヴァイオリンと主旋律が受け渡される音楽において、指揮者右手側から左側へと展開されるとになる。これは、これで面白いだろうけれど、果たして、作曲者の意図と合致しているかは、疑わしいといえる。すなわち、コントラバスを舞台上で、指揮者の左手側に配置されると低音部が左手で指揮されることになり、右手側でアルトと第二ヴァイオリン、そして、チェロの手前の第一ヴァイオリンにメロディーが受け渡されて、音楽は落ち着くことになるというのが、作曲者の意図といえるのではあるまいか?というのが、盤友人の見立てである。
お読みになる諸氏には、いつもいつも両翼配置だけ書くんではないっ!と、うんざりさせられる向きも多いであろうと内心、盤友人もそのように、理解しているけれど、ついついその意見を開陳してしまうといのが現実。今まで第一と第二ヴァイオリンを並べるのが当然であったのだけれど、LPレコードを注意深く耳にしていると、二つのスピーカー、それが、ステージ左右の展開と一致した録音に出会って、ハタと、気が付いてしまった経験による。ベートーヴェンもオネゲルも、弦楽合奏の基本はヴァイオリン両翼配置なのであって、それは、ステージ上での左右コントラスト対称という感覚か、さにあらずか?というものである。ストリングスの開放弦、ステージ左側から順番に右手側第二ヴァイオリンまで、なめらかに高くなることに気がつくと、指揮者右手側にコントラバスが配置される問題点が明らかにされるという事実を指摘しておかねば、千曲万来余話その意味はないといえる。