千曲万来余話その309「ブランデンブルグ協奏曲第六番、ボールト指揮ロンドン・フィルの名演」
夕方四時頃から電源スイッチを入れて、途中、夕食をはさみ、夜の十時までレコード鑑賞する。
オーディオシステム、真空管のアンプで、レコードプレーヤーを廻してLPレコードに耳を傾けると、不思議にも最初つまらなかった音、システムとの一体感が生まれるのには、二時間くらい、かかるようだ。いや、正確に言えば、夜八時を過ぎる頃、明らかにスピーカーの鳴りっぷりは熱を帯びる。ピアノという楽器の音楽では、倍音が実体を感じられて、物理的、音響的に魅力的となる。ピアノの旋律、フレーズの句読点が見事に感じられるし、ピアニストの気迫が伝わってくる。何よりも、作曲家の精神がビシビシ、伝わってくるとこれはもう、オーディオルームが小宇宙と化す。
1721年3月24日献辞、ブランデンブルグ辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒのために作曲されたバッハ作品番号1046~51のうち、第六番変ロ長調は二本のヴィオラ・ダ・ブラッチォ、二本のヴィオラ・ダ・ガンバ、チェロと通奏低音という三楽器群のためのコンチェルト・グロッソ、複数楽器のための協奏曲。ヴァイオリンが使用されないで、ヨハン・セヴァスティアン・バッハ自身がヴィオラ・ダ・ブラッチォを演奏していたと伝えられている。ヴィオラ・ダ・ブラッチォという楽器は、腕のヴィオラともいわれる、現在のアルト=ヴィオラの前身。ガンバは、脚のというもので抱えて演奏され、脚のヴィオラ自体は、エンドピンが付くと、チェロに成長することになった。
二本のということは、それぞれ第一と第二の演奏楽譜が書かれていて、ブラッチォとガンバは四人で演奏されることになる。さらに、チェロ、コントラバス、ハープシコードが加わる。
1973年コピーライトクレジットによると、1972年頃の録音となる、ロンドン・フィルハーモニックの演奏、ハープシコード奏者の名前に、レイモンド・レッパードというビッグ・ネイム。彼は後に指揮者として活躍している。録音プロデューサーとしてはクリストファー・ビショップ、録音バランス・エンジニアとして、クリストファー・パーカーのクレジットがある。
指揮者はエードリアン・ボールト卿、EMIの二枚組レコード、鮮やかな録音だ。
気が付くと、第三楽章で、第一が左スピーカー、第二は右スピーカーから聞こえてきて、演奏が掛け合いになっているのが、よく分かって実に愉快である。
ステレオ録音によるレコードは、1955年頃から出現していて、その原点は、左は高音域、右は低音域という、音響の高低による区別であった。
作曲家の意図を、うんぬん云えないけれど、演奏効果としては第一と第二が左右に展開すると音楽が、魅力十分なのである。演奏し易いかは別として、聴く立場としては、ステレオ録音の一つとして、第一楽器と第二楽器の左右展開は、その掛け合いを聞かせる一つの選択肢といえる。
ボールト指揮する、バッハ、モーツァルト、ブラームスなどのレコードは、存在価値が高い。
東京の音楽会では、もはや、多数、経験できる音楽であろう。
ウィーン・フィルハーモニー、ニューイヤー音楽会で、楽器配置は古典配置といわれるように、舞台の両袖に第一ヴァイオリン指揮者左手側、右手側には第二ヴァイオリンが展開しているのだがこれは、あるべきオーケストラ演奏会の楽器配置として、スタンダードとなるだろう。
ボールド卿、不滅のレコード芸術よ、万歳!