千曲万来余話その296「幻想交響曲、アルヘンタ指揮したパリ音楽院管弦楽団」

スピーカーの豊かな響きに、素晴らしい演奏が繰り広げられるレコードの再生を実現すると、そこにオーディオ人生、歓びの時間を過ごすことになる。
12月14日、満月の夜に万有引力の世界、月と地球と太陽の位置関係をイメージして、スピーカーの鳴りを満喫する。この上に室内湿度33パーセントという好条件が整って、楽器の奏でる倍音の豊かな音楽を味わう愉悦が倍増する。愉快なこと、この上ない。
レコードは、オリジナル盤がベストの再生が約束されているけれど、すべてのソースをそれのみで揃えることは不可能なこと、だから、デッカのレコードでいうと、SXLナンバーではなく、SDDナンバーLPで鑑賞を愉しむことになる。
ベルリオーズ作曲、幻想交響曲をパリ音楽院管弦楽団、指揮者アタウルフォ・アルヘンタの演奏を聴いて、耳を惹きつけられてしまった。聴き始めて、どことなく緊張感が普通ではないな、と感じつつ、とりあえず、片面だけでもと思っていたら、第三楽章の途中で続きを、聴かないではいられなくなっていた。これは、余り経験することではなく、アルヘンタの芸術に、開始の一音から捉えられていたといっても過言ではない。
演奏者達の、耳をそばだてて合奏している雰囲気が際だっている。
音量のバランス、タイミング、フレーズの感覚すべてが、ぴたりと合致している。
指揮者と、プレーヤーの演奏に、違和感が介在しないでぴったり、一致している。
オーケストラの演奏の上に作曲者の微笑みがオーヴァーラップして浮かび上がるかのようだ。
アタウルフォ・アルヘンタ、1913.11.19~1958.1.21スペイン北部カストロ・ウルディアーレス生まれ、44歳の若さ、マドリードで死去している。この幻想は1957年頃の録音だから、彼の白鳥の歌とも云える。マドリード音楽院でピアノ、ヴァイオリン、作曲を学び、ベルギーに渡り、さらにドイツでは、カール・シューリヒトに師事している。カッセル音楽院で教鞭をとっている。 1939年に第二次大戦のため、帰国。45年にはスペイン国立管弦楽団、48年にはロンドン交響楽団に客演して好評を博していた。パリ音楽院管弦楽団、スイス・ロマンド管弦楽団などにも客演していた。
彼の演奏する幻想は、並大抵のグレードではなく、ハーモニーの感覚に出色の演奏を披露している。コントラバスの音量の上に、チェロやアルト、ヴァイオリンの音程がぴたり、決まっている。この集中感が、他のレコードでは経験できない印象を与えているのだ。43歳という若さのなせる音楽で、さらに、経験を加えて大成した音楽をと、思わせるのがレコードの世界で、彼は翌年に他界している。悲しいものがある。管楽器の鮮やかな音色、演奏を耳にできることを、よろこびとしよう。クリスマスというのは、冬至を迎えた暗闇の世界に灯る、一点の星明りであろう。
天上の星空のかなたに、父なる神、愛する父は、居ませたまう。
我、思うゆえに、我あり!アルヘンタのレコードは不滅であり、オーディオの努力をさらに一層、深めようとの思いを強くするのである。