千曲万来余話その293「ドビュッスィ、ベルガマスク組曲をコチシュ・ゾルターンで聴く」を掲載。
ベルガマスク組曲は1890年から1905年にかけて作曲されたピアノ作品。その名前の由来に二説あり、イタリアのベルガモ訪問の際に作曲されたというものと、ワットオ・ベルレーヌのイタリア喜劇の仮面仮粧の姿の幻想に由来されるという説が今では有力。四曲からなり、第三曲月の光が有名。 ドビュッスィは、1862年8月22日パリ近郊サンジェルマン=アン=レ、早朝4時半ころに誕生、1918年3月25日パリ、パストゥール・ヴァルリー=ラドォらが枕許につきそい、夕方6時に臨終したと伝えられている。55歳7ヶ月だった。
組曲は前奏曲、ヘ長調、メヌエット、イ短調、月の光、変ニ長調、パスピエ、嬰ヘ短調で構成されている。古風な素材を斬新な響きで彩っていて異色の音楽。 ゾルタン・コチシュは、1952年ブタペスト生まれ、3歳からピアノを演奏、作曲し、5歳で正式にレッスンを受けている。11歳、バルトーク音楽院入学、16歳でリスト音楽院に進学、パウル・カドシャ、フェレンツ・ラドシュについて学んでいる。ソリストとして、1970年18歳で、ハンガリー国営放送ベートーヴェン・ピアノ・コンクールでグランプリ獲得、海外で最初の演奏は同じ年の、ドレスデンでのものだった。デジェ・ラーンキ、アンドラーシュ・シフらと並び、ハンガリーの三羽烏と称された。その後、指揮にも進出して、イヴァン・フィッシャーと共に、ブダペスト音楽祭管弦楽団を主催し、活躍を続けるも、2012年心臓手術を受けるなど、闘病生活が続いていた。11月6日、死去、64歳だった。
フィリップス録音、ディジタル・クラシックスは1983年9月11―15日ロンドンで記録された。 きわめて、豊麗で倍音が力強く鳴る音楽で、コチシュにとっても抜群の演奏である。開始から、鮮明に録音されていて、なおかつ、流麗な音楽づくり、いささかの揺るぎもない、確信に満ちた演奏である。軽快なメヌエット、それに続く夢幻世界、月の光はひときわ、雄弁なピアノの音響に広がりを見せている。
彼の訃報は、同世代のアーティストとして、これからを嘱望されていた逸材であり、ことさら、身に沁むものがある。
12月7日夕方4時、南西の青空に宵の明星が一際輝く、彼も星になったんだぁ・・・・