千曲万来余話その270「プロコフィエフ、ロメオとジュリエット作品64のもつ近代性」を掲載。
ディミトリー・ミトロプーロス1896.3.1アテネ~1960.11.2ミラノ、1949~1958ニューヨーク・フィルハーモニック音楽監督。 バレエ音楽の名曲ロメオとジュリエット、開始はモンタギュー家とキャピュレット家、不協和音と悲劇的な音響で、一気にドラマの世界に引き込まれる。ミトロプーロス指揮するニューヨーク・フィルハーモニックの演奏は、かなりな緊張感溢れる音楽になっていて、聴きものである。
ミトロプーロスには、有名な逸話が多い。一つ目、オーケストラで演奏最中にヴァイオリン奏者一人でも音程の狂いを指摘する、完璧な耳の持ち主だということ。二つ目、オーケストラメンバーほとんどのファーストネイムを覚えてしまう暗記力抜群ということ。三つ目、生涯不犯高僧のごときギリシャのピアニスト指揮者。ブゾーニの高弟、1930年ベルリンでプロコフィエフ、ピアノ協奏曲第三番を弾き振りして一夜で名声を轟かせたということである。ミラノでマーラー交響曲リハーサル中に心臓発作を起こして急逝したというのも、彼の音楽人生そのものである。
ロメオとジュリエットでは、管弦楽法が近代性をおびている。サキソフォンの使用など、音色が多彩であり、打楽器の使用でも、ティンパニーなど活躍する。ミトロプーロスが採用する弦楽器の配置は、ヴァイオリン・ダブルウイング。ステレオ録音では、演奏効果のハードルが高いものだ。
1957年11月、悲劇性、緊迫感高い内容の録音になっている。ハラハラドキドキ、手に汗にぎる。 彼の採用する楽器配置は、ピエール・モントゥーと共通する。彼らは、1950年代オーケストラ音楽の体現者であって、ニューヨークでミトロプーロスの後任は、バーンスタイン、ロンドンで、モントゥーの後任はアンドレ・ブレヴィン、二名とも共通して、第一と第二ヴァイオリンを並べた1960年代主流となった楽器配置であったという事実は、興味深い。
多分、楽器配置の問題は、時代のファッションともいえる、無言の圧力なのであろう。彼らは賢明な判断に従ったまでである。2016年9月11日Eテレで放映された、ザンクトペテルブルグ・フィルハーモニー、ユーリ・テミルカーノフ指揮したショスタコーヴィチ作曲、交響曲第七番レニングラードの演奏は、コントラバス九挺が下手側で、ヴァイオリン・ダブルウイング配置であった。これは、何を意味するのか?
現在、ヨーロッパでの主流は、Vn両翼配置だということである。日本に居ただけでは分からないが、オーケストラ界の時流は、すでに、伝統回帰の時代であり、時代の振り子はそのように振れていると云うことだ。60年代の指揮者達は、前時代を否定したのであるから、これからの時代は彼らが否定される側にいる。ヴァイオリンを両翼に開くことにより、合奏難易度の高い、緊張感のある演奏の時代がこれからなのであろう。
ミトロプーロス指揮するレコードの価値は高く、これからは聴き直されて然るべきである。