千曲万来余話その267「バドゥラ=スコダ、シューベルトの即興曲集1955年録音を聴く」
モノーラル録音LPレコードを再生していると、ピアノ音響の特色が面白くなってくる。
ウエストミンスターレーベルでパウル・バドゥラ=スコダが演奏しているピアノは、ベーゼンドルファー。中低音域の響き方に特色がある。音の量感、かたまりが大きく感じられる。左手の弾く音量がピアノでも、響き方の鳴りは充分である。
シューベルトの即興曲集は、作品90D899と作品142D935二つの作品番号からなっている。1827頃、作曲されている。シューマンは、一つのピアノソナタと考えられると云っていたようだが、楽譜には即興曲という自筆が残されているそうだ。いずれにしろ、一曲ごとの独立性が強調されている。
作品142の第二曲、変イ長調は、夕方時の鐘の聞こえるような音楽になっている。
一定の間隔で鳴らされる音があり、鐘の響きがイメージづけられる。
バドゥラ=スコダの演奏は、深い響きをともなっていて、印象的だ。ジャケットでは、1955年録音という表記が大きく載っていて、興味をひいた。
1949年2月8日、22歳のバドゥラ=スコダは、巨匠フルトヴェングラーとウィーン、ムズィークフェラインで初共演を果たしている。
1952年1月27日、彼は巨匠とモーツァルト、K482の変ホ長調協奏曲を共演。
1954年11月30日、フルトヴェングラー死去。
時系列を眺めていると、彼と巨匠の関連が浮かび上がってきて、興味深い。そのように聴いてみると、あの音楽は、巨匠を追慕する音楽であったように響いてくる。シューベルトの音楽、作曲者の感覚と、演奏者の心境がオーヴァーラップして、胸に迫るものがある。
モノーラル録音では、ピアノの音響に力がこもり、真に迫ってくるから不思議だ。この感じ方は貴重であり、オーディオの人生を一歩一歩積み重ねてきて、初めて獲得する感覚であり、一朝一夕でできる音楽ではあり得ない。
シューベルト、フルトヴェングラー、バドゥラ=スコダ、一直線上に連なった感覚がしてきて、邯鄲の夢のごとく鑑賞できる仕合わせを、深く味わいたい。