千曲万来余話その261「モーツァルト、ピアノ協奏曲ニ短調K466、メイエル讃」
良い録音とは何か?ピアノ協奏曲の場合、独奏楽器と管弦楽のバランスが決め手である。 オーケストラとは、弦楽器のほかに管、打楽器が加わり、オーボエやファゴットの音色と弦楽器の量感が気になってくる。
ディスコフィル・フランセのLPレコードは、録音年代が1950年代のものが主流でアナログ録音のスタンダードといえる。エウィット指揮、彼の管弦楽団、ピアニストはマルセル・メイエルでモーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調K466を聴いた。
彼女の演奏の特色は、明快なタッチ、歯切れの良いリズム感、運動性の高い技巧を展開するところにある。モーツァルト、短調の音楽ではペーソスと、長調での明朗闊達な陽性とを、対比的に、表現してこそ味わい深いものがある。疾駆する哀しみの表現に成功すると、陽性の音楽は立体的になる。第一楽章が悲劇的であるとき、第二楽章の陽性が意味合いが浮きだってくる。開放感の表現に成功することになる。メランコリーの音楽で開始されるとき、ジャンプする陽気は、力感が効果をもって感銘を与える。
メイエルのレコード、一般的にピアノの音が全体としてまとまりを持っている。だから初めて。協奏曲を聴いてみて、印象としてスピーカーから独奏楽器の音像が大きいバランスで、独奏者が耳にするであろうオーケストラの感覚がする。独奏者の位置に中心があるように聞こえる雰囲気であった。これは、今まで経験しなかったことである。
録音技師、アンドレ・シャルランの名録音、面目躍如である。ピアノの量感が充分で、なおかつ、管弦楽の音色がカラフルであり、ヴァイオリン、アルト以下、チェロとコントラバスの中低域が、雄弁だ。オーボエの音色もひときわチャーミング。いうことなしである。
モーツァルトの音楽は、楽器の音だけではなく、演奏の運動性と音楽の妙味がミックスされて、充分な感動を約束される。その点、メイエルの若い音楽性と、経験豊富なシャルランの確かな技術が、あいまって名録音を誕生させているのは奇蹟ともいえる。
オーディオとは、経験の積み重ねと、たゆみ無い努力、求める愛があってこそ、縁を引き寄せるのではないだろうか?まさに、メイエルの豊かな音楽により、深い満足感を与えられて、至福!のひとときだ。クリケットレコードに、音楽の愉悦ありである。