千曲万来余話その257「ハイドン、弦楽四重奏曲第23番へ短調をPMFで聴く」
札幌の夏には、PMFパシフィック・ミュージック・フェスティバル国際教育音楽祭が繰り広げられる。1990年、レナード・バーンスタインの提唱により音楽大学生を中心にオーディションをへて、選抜されたメンバーにより、管弦楽、室内楽の演奏会が3週間ほど開催されている。
盤友人は、札幌音蔵のお客さんの紹介で、7月26日火曜日に、弦楽四重奏のプログラムを愉しんだ。ハイドンの弦楽四重奏曲第23番ヘ短調作品20-5から始まり、ボッケリーニのヴァイオリン二重奏曲、そして、ドボルジャークの作品96アメリカというものだった。メンバーはそれぞれ入れ替わり、それぞれが熱演だった。
銀行のセミナーホールが会場で、音響は残響が無く、まったくのデッド、演奏者にはプレッシャーの負担を乗りこえて、演奏が展開されていた。メンバーのアイコンタクトも面白く感じられるほど、興味深かった。
第一ヴァイオリンのみならず、第二ヴァイオリンから開始される音楽や、ヴィオラ=アルトの場合の気合いの入れ方など、間近に繰り広げられて、楽しかった。
音響的にみて、サウンドの薄い点など、不利な条件でも、一所懸命な演奏には、好感がもてた。 技術的にみても、よくトレーニングを経験していて、遜色はなかった。
ただし、楽器の配置には、疑問が残った。なにも、変わった配置ではなく、現代の主流の配置であるのだが、第一、第二ヴァイオリン、チェロ、アルトという展開形である。 ボッケリーニの二つのヴァイオリンのための音楽、演奏者は、譜面台を客席に正対していたのだが、第一ヴァイオリンの美しい女性奏者が両足を客席に向けているために、自然、楽器は斜め外側に向けられることになり、音の放射は客席に向いていないことになる。楽器は表板から指向性がかなり高い。第二ヴァイオリンの音域は、第一より音域がオクターブ下の音楽が主体で、裏板がかなり響く。どういう配置が理想なのか?
それは、譜面台を内側に対面させると良くて、演奏者同士が向かい合うと楽器は、自然と客席に向くことになる。第二ヴァイオリンは、だから、裏板をしっかり鳴らす演奏に仕上げられる寸法になるのである。
一方、弦楽四重奏は、このことを出発点に考えると解決される。すなわち、現代の配置に欠如しているアイディアは、ヴァイオリン両翼配置、ダブル・ウィングの無視ネグレクトなのである。 ドボルジャークのヘ長調作品96アメリカなど、現在の第二ヴァイオリンの位置にチェロが座ることで全てが解決される。アルト独奏など、この楽器は裏板が響かない楽器なのであるから、内側に配置されることで、f字孔を正面に向けるのがベストである。
ハイドンやドボルジャークの作曲も、前提はヴァイオリン両翼配置の音楽であり、そのように演奏すると合点がいくというものである。
時代の前提に疑問をもつというのが、なかなか展開のスタートを切れないという問題なのであろう。