千曲万来余話その245「交響曲第9(8)番グレート、ケンペ指揮するミュンヘン・フィル」
シューベルトの未完成は交響曲第8番という番号で、多数のレコードがすでに流布している。 ところが、第7という数字が欠番であった(ホ調、楽譜未出版)ために未完成が第7番にグレートが第8番にする方向に進行している。
ただし、レコードコレクターとしては、第8番未完成が定着していて、第9番グレートがふさわしく思う。これから、どのように定着するのか、様子を眺めてみたい。
オーケストラの楽譜を手にすると、楽器の配置は、作曲者に特に指示されてはいないことが分かる。 すなわち、作曲家は、演奏者の判断に委ねている問題なのであろう。 理想の配置は、いかなるものか、指揮者の課題というわけだ。 シューベルトの第9番ハ長調ドイチュ番号944は、1828年11月19日、彼が病没の後に、38年ウィーンを訪問したシューマンによって浄書スコアが確認されていて、39年3月21日にメンデルスゾーンの指揮、ライプツィヒで公開初演されたという経緯がある。
自筆スコアには、かなり修正が加えられていて、それが、自身のものか?他者によるものなのか、定かではない。指揮者にとって、特に採用する楽譜の問題は、永遠の課題といえるであろう。
ルドルフ・ケンペは、1968年5月にミュンヘン・フィルハーモニカーと第9番グレートを録音している。 開始のホルンのユニゾンからして、アーティキュレイション演奏法、タンギングの付け方の問題を提起している。ケンペ、ミュンヘン・フィルの演奏はそこのところ、聴きものになっている。 充分に吟味されていて、説得力がある仕上がりになっている。
この深みは、弦楽器の配置にもいえている。第3楽章、tytyラリラリ、タッタッタ、タリラリラリラー・・・ このティティラリラリ、ティティラリラリという受け渡しが、左から右、手前から奥、そして、右から左、さらに奥から手前へと、舞台の使い方に奥行きをもたらせているところに、価値がある。 音楽に立体感が生まれ、面白味が倍加しているというわけである。
ルドルフ・ケンペの指揮した音楽は、演奏者同士の理解の深まりにより、さらに聴き手を説得する奥深い芸術として、特筆大書されるにふさわしい音楽がレコード記録となっていることに、盤友人は、その仕合わせを覚える。ただ、1963年頃録音のケルテス、ウィーン・フィルの必聴盤あり。 レコード音楽とは、どのように再生するかでもって、価値は左右されるものであると言えよう。