千曲万来余話その243「ブレンデルのシューベルト演奏、そして輪廻転生・・・」

フランツ・シューベルト1797~1828ウィーン没 S氏の音楽を評して、40数年前大学のソルフェージュ講義で、教官は、ベートーヴェンの音楽構造とは形式の上で、対位法の技法に劣っている部分があるとおっしゃっていた。
正確な言い方ではないけれど、格が劣っているという風に学生だった盤友人は受けとめていた。 そんな教官についても昨年の冬、ご高齢のうちの訃報を聞いた。
冬の旅の全曲演奏が彼の業績の、ひとつ。コマさんの愛称で親しまれた先生だった。 そんな事を思いつつ、アルフレッド・ブレンデルの弾く第20番イ長調D959のLPレコードを聴いた。 その第4楽章は、ロンド形式。ABABCAという具合で、主題が繰り返される音楽になっている。
最初、聴いたとき、途中まで第一主題と第二主題の繰り返しのように錯覚していた。ジャケットの説明を確認して、ロンド形式を認識した。 ところが、この音楽、なにか輪廻転生を思わせた。Aの部分、音楽が繰り返されて反復を聴いているうちになにか希望の音楽に聞こえていた。 明らかにこの音楽は、反復する意志を感じさせられた。そうして終結で反復されて、作曲意志の信念を感じたのであった。これは、形式感の欠如という否定される音楽ではなくて、S氏の当時の感覚であり、立派なソナタ形式の拡大延長、新境地と言えはすまいか?
あれから40年経過して、盤友人としては、コマさんに反論というとそうではないけれど、違った感覚を伝えたい気がする。そんな感想を、ブレンデルの演奏を聴いて、催した。 S氏はB氏の背中を見て、ソナタを作曲し続けて、第20番ではとうとう、シューベルトの音楽を確立していたのではなかろうか?そしてそれは、輪廻転生の感覚と同じ境地である。
ブレンデルの演奏は、1970年初来日演奏会の時ベートーヴェンのハンマークラヴィーアソナタ、第29番を演奏するTV放映された姿の記憶が鮮明である。
1931年1月5日、チェコのモラヴィア地方ヴィーゼンベルク生まれで、オーストリア、トイツ、チェコ、イタリアなどの、家系出身。 60年代初期には、ベートーヴェンのピアノ協奏曲、ディアベルリ変奏曲など録音をリリースしている。1971年には、シューベルトのソナタ第20番、ドイツ舞曲集を発表している。 フィリップス録音では、モーツァルトの協奏曲全曲録音など、偉大な業績を残している。 ベートーヴェンのソナタ全曲録音二回、協奏曲全曲も、三回残している。 フィッシャー=ディースカウ冬の旅、六回目の録音ピアニストをブレンデルが務めている。 すでに、現役をリタイヤしているけれど、彼の業績をレコードで鑑賞することのできる仕合わせを盤友人は、噛みしめている。