千曲万来余話その226「へこんでしまった心を、修復するオーディオ」
昼間、ちょっとしたイヤなことを経験して、それをひきずり、心がへこんでしまうことがある。 そんなとき、オーディオを鳴らしてもつまらないだろうなと思いつつ、LPを聞き込んだ。
オトカズ音数の少ない、ピアノの独奏曲を先にする。 マルセル・メイエルの弾いたバッハ、半音階的幻想曲とフーガ。ピアノの鳴りっぷりが充実して、響きの方向性が見えるがごとくに再生されるから、とてもたまらない。すっきりする。
続けて、バッハの無伴奏ソナタ第三番ハ長調BWV1005、ヘンリク・シェリングの旧録音。 針圧を7,8グラムで聴いていた。適正針圧7~8グラムのモノーラルカートリッジなので、それはそれでかまわなかったのだけれど、7,5グラムにして聞き込むことにした。 その差は、わずか0,3グラムなのだけれど、ヴァイオリンの、弓が弦を擦るタッチが微妙なところまで再生されて、実に嬉しくなってしまった。
その後に、エドゥアール・ラロのスペイン交響曲作品21を聴いてみた。 アルフレッド・カンポーリ、エドゥアルト・ファン・ベイヌム指揮、ロンドン・フィルハーモニー。 1953年頃のデッカ録音で、第四楽章が、アンダンテ、荘重で、悲愴な調べの音楽。 第三楽章の間奏曲など、スペイン情緒満喫させられる演奏だ。
この曲は、交響曲と名付けられながら、ヴァイオリンの独奏つきで協奏曲の体裁をとっている。 オーケストラの色彩も、多彩な打楽器が打ち鳴らされたりして、華やかである。 地中海の晴れ渡った空模様が、イメージされて、すかっとさわやかな気分になった。
ヴァイオリンという楽器、表と裏板の響きがあり、それを鳴らし分ける力量はマジックだ。 職人芸として、他のアルトやチェロの響かせ方と異なっていて、名人芸に出会うとその面白さに、心の憂さも、晴れ渡ってしまっていた。 たから、今回、ふさぎこんでしまった心の状態を、リセットすることに成功していたようである。
ヴァイオリンの名演奏を再生して、オーディオの醍醐味を満喫、心を修復できて良かった。