千曲万来余話その213「セレナードニ長調作品25、ラリューとガッゼローニで聴く」
フィリップスのLPレコード、ベートーヴェンの三重奏曲集、Vnはグリュミオーで、ヴィオラはヤンツェル、フルートは1934年マルセイユ生まれのマクサンス・ラリュー。
作品25が、セレナード小夜曲ニ長調。1796年頃作曲ともいわれている。
7曲からできていて、開始は、イントラータ導入曲。左右スピーカーの中央に定位したラリューの軽快な音楽に始まる。
左には、グリュミオーのヴァイオリン、右側にジョルジュ・ヤンツェルのヴィオラが、弾むように演奏されている。室内楽の醍醐味というか、ただ単に右側からアルトが聞こえるというより、音楽のけじめをアルトがしっかり演奏しているのが伝わってくる。左スピーカーからは、Vnの美音とフルートの音楽が寄り添っていて、いかにも息がピッタリ合っているという印象が鮮明だ。
ゆったりとしたアンダンテの音楽では、左右の弦楽器のボウイング運弓法が合わせられていて、快い感覚である。ステレオ録音の醍醐味だ。
この作品25を原曲として、作品41というフルートとピアノのセレナードニ長調がある。
ブルーノ・カニーノのピアノ、セヴェリーノ・ガッゼローニのフルートで聴く。
ガッゼローニ1919年1月5日ローマに生まれ、聖チェチーリア音楽院卒業、1945年ローマ
でデビュウしている。1992年11月21日脳腫瘍、73歳で死去している。
ガッゼローニのフルートは、晴朗で、朗々と歌い軽やか、正確無比の音程で輝く音色を披露している。ブルーノ・カニーノのピアノは清潔で、気品があり、倍音一杯のピアノのタッチである。
左スピーカーにフルートが定位して、右側スピーカーにピアノが定位する安定感は、フィリップスの録音の優秀さを物語っている。
第一曲のイントラータは、跳躍音程が印象的で、耳に残る音楽となっているのだけれど、それにも増して、ガッゼローニの輝く音色と正確な音程を耳にしていると、モーツァルトが嫌っていた楽器であるフルートの、安定感を彼に聞かせて上げたいものだと、つくづく思われる。
ベートーヴェンの、耳の病に冒される以前の音楽で、人生の春を謳歌しているのが伝わってくる。