千曲万来余話その207「バッハ無伴奏Vnパルティータ、シェリングとシゲティを聴く」
2月23日の満月夜を越してから、カートリッジを付け替えて、モノーラル録音LPレコードを聴いている。それも、無伴奏ヴァイオリンを再生して、楽器の音響、鳴りっぷりを愉しんでいる。
ヘンリク・シェリング1918・9・22ジェラゾヴァ、ポーランド~1988・3・3カッセルは、生涯に二回バッハ無伴奏ソナタ・パルティータを録音している。モノーラルで1955年パリ録音、1967年にはヴヴェイでステレオ録音を果たしている。そのモノーラル録音を再生した。
まろやかな音質、滑らかな演奏、高い精神性、高潔なその人間性に想いを致した。
特に第一番パルティータ、ロ短調。この調性は、ヨハン・セヴァスティアン・バッハの特別な音楽である。無伴奏ソナタは、4曲構成なのに対して、パルティータ第二番など5曲構成になっている。
高い精神性ではヨーゼフ・シゲティ1892・9・5ブダペスト~1972・2・19ルツェルンというビッグネイムがいる。
1959年ヴァンガード録音がある。時代はステレオ録音に入っていても、モノーラルの最高傑作である。シゲテイの評論で、精神性は高いけれども、テクニック技術は?という失礼なものを目にするし、公言してはばからない輩もいる。
果たして、無伴奏全曲録音に対しての評論で、天に唾するような笑うべき認識である。
シゲティは、克明な表現を心がけているのであって、その滋味深い音楽を充分に味わうことのできる仕合わせを感謝する。彼は、ガット弦で、特徴的なヴィヴラート、正確な音程で弾ききっているのだ。音楽の表情は、実に、絶妙である。BWVバッハ作品番号1004、第2番パルティータ、ニ短調を再生すると、この楽器の音響再生に注意を払って集中している事実に胸をうたれる。
第5曲シャコンヌは、葬送音楽の秘曲。その高い精神性、ここにきわまれり、空前絶後といえる。
瞑想の世界、バッハの偉大な音楽を前にして、只管打坐・・・
不思議に、無伴奏ヴァイオリンの音楽を再生した後で、モーツァルトのピアノ独奏曲を聴きたくなる。アレグロト長調K312、ソナタ変ロ長調K333をハイドンソサエティ番号HS9037、
リリー・クラウスの演奏で再生した。
清潔なピアノの演奏で、キンコンカンと、音の粒立ちが明快である。この演奏スタイルは、リリー・クラウスの独壇場だ。じっくり耳を傾けて、ソナタの第二楽章、緩徐楽章でゆったりとした音楽、その演奏で、二点へ音ファの音、とりわけその音に当たると、調律が克明で輝くごときである。
モノーラル録音のその豊かな再生音に、スピーカー、一対のドライバー、そしてウーファーと音域によって充分な鳴りを愉しむことに、想いを一層深める次第である。