千曲万来余話その206「ブラームス、ヴァイオリンソナタ雨の歌をブッシュ、ゼルキンで聴く」
オーディオ装置、プリアンプやフォノイコライザーの下に敷く板2枚で音質が変わる。
板を敷くことにより、再生音帯域のバランスが中低音に厚みが加わることにより、変化した印象を与える。
モノーラルLPレコードで薄かった低域が厚くなって聴きやすくなる。逆に高音域が減衰した印象になるのだけれども、ピアノ独奏の再生で、倍音の感覚が生きていれば、OKである。グッドグッド!
メロディアレコードで、1930年ベルリン録音、アドルフ・ブッシュ、ルドルフ・ゼルキンの演奏によるブラームスのVnソナタ第一番を聴いた。
ブッシュというドイツ人ビッグネイムには、三兄弟がいる。
指揮者、 フリッツ・ブッシュ1890・3・13ドイツ~1951・9・14イギリス
ヴァイオリニスト、アドルフ・ブッシュ1891・8・8 ドイツ~1951・6・9 アメリカ
チェリスト、 ヘルマン・ブッシュ末弟、不詳。
次男アドルフ・ブッシュの演奏を聴くと、そのエネルギッシュで情熱的、気高い演奏様式に感銘を受ける。まさに、正統的ドイツ音楽の演奏スタイルを体現しているといえる。
ブラームスのソナタ第一番は作品78。第一楽章に現れる、タ・タターというリズムが第三楽章のピアノ伴奏に演奏されて、重要な動機だ。彼の表現によると、折り目正しく演奏されている。
オーディオ的にいうと、メロディーラインの高まりで、時々、キラリと高音域が輝く瞬間があることに気付かされる。これは、マイクロフォンに向かって、楽器のf字孔の空気振動が照射していることによる。そのことにより、演奏者は不動の姿勢をキープしていることがうかがえる。
最近のコンサートで、ヴァイオリン奏者がさかんに、右、左へと体を揺らす風景を目にすることが多い。以前、ベートーヴェンの協奏曲を、不動の姿勢で演奏したイタリア人ウート・ウーギの姿が印象に克明である。第一楽章の終末でようやく、右、左にf字孔を向ける演奏姿に感銘を受けた。
彼は、楽器の振動音をホールに充満させて、その上で体を向けたのだった。体を絶えず動かすのは、不動のスタイルでの感動を、与えてはくれない。そこのところ思い起こさせてくれたのはブッシュ演奏のレコードである。
モノーラルLPレコードには、重要な情報が満ちていて、オーディオの極意は、その少しでも多くの再生だといえる。実に果てしない話ということだ。