千曲万来余話その198「1963年、カール・シューリヒト指揮するB氏作曲した英雄交響曲を聴く」
カール・シューリヒト1880.7.3ポーランド領ダンツィヒ生まれ1967.1.7スイス、ヴヴィエ
清廉で高潔、しなやかでその上、格調高い音楽を記録している指揮者カール・シューリヒトの録音ソースが、LPレコードで発売されたのは最近のことである。
オーケストラはフランス国立放送管弦楽団で、パリ・サルプレイエルでのライヴ演奏。
彼の指揮するオーケストラ演奏は、どれもスリムでなおかつ、明晰なメロディーライン旋律美が印象に残る。
演奏者の熱気が伝わり、そしてそれは、しなやかで律動的である。
ベートーヴェンの交響曲を把握して演奏するとき、ハイドンの交響楽の方向から古典的なとらえ方をするのと、ワーグナーの楽劇的なとらえ方をする演奏と二種類のアプローチの仕方が考えられる。
ウィルヘルム・フルトヴェングラーが指揮する音楽は、大編成のオーケストラを指揮していていかにも後者のタイプの典型である。それはそれで、彼の偉大な指揮芸術であろう。
カール・シューリヒトの音楽は、それほど、大げさな音楽に、なっていないどころか、聴いていていろいろなことを考えさせる自由な時間を過ごすことができる。前者のタイプ。
英雄交響曲は、ベートーヴェンが第三番の交響曲として、ということはホッフ゜ステップ、ジャンプして、発表した音楽である。確かに、第一楽章の終結に向かうとき、トランペットの吹奏が、オリジナルは、木管楽器のように吹奏するメロディーラインもあり得る中、大勢、そして彼のは、主旋律風の音楽になっている。
第二楽章の葬送音楽は、ことさら悲劇的でもなく、室内楽風の演奏に終始する。でもパトスは充分だ。
第三楽章、ホルンの三重奏は、軽妙かつスリリングであり、諧謔味スケルツォ風も大家の音楽になっている。
第四楽章フィナーレは、B氏の変奏曲作曲の妙味が充分演奏表現されていて聴き応え充分である。
先日、ユージン・オーマンディ、ハンガリー風ではイェーネ・ブラウ氏指揮したフィラデルフィア管弦楽団の演奏するブラームス、交響曲第一番を聴いた。その豪華絢爛たる音楽に、たまげてしまった。キャデラックを運転するブラームス風な音楽!緊張感溢れるその演奏は、ゴージャス、ストレス発散にはぴったりだ。
でも、聴いた後には、何も残らない、肩の凝らない音楽であった。そんなレコードの時代もあったのだ。
カール・シュリヒトの音楽記録は、演奏者のリスペクトのみならず、それを録音したスタッフのリスペクト、なによりも、その音楽を充分に堪能した聴衆の快哉ぶりを、伝えてあまりある。
キングインターナショナルのリリースに対し、盤友人としてここに謝意を表明したい。