千曲万来余話その180「続グレン・グールド論、文庫本、孤独のアリアを読む」
彼は、メディタシオン瞑想を心がけていたという。コンテンプラティオ観想の最初の段階。
被造物についての瞑想メディタチオ・イン・クレアトゥリス、書物への瞑想メディタチオ・イン・スクリプトゥス、生活習慣への瞑想メディタチオ・イン・モリブス、この三種類の瞑想をとおして、賛嘆の念、読書、慎重さを身につけたという。思索、瞑想、そして演奏、彼の芸術は、音楽の核心に迫ることになる。
札幌地下鉄真駒内駅で、昨年に出会った言葉、人生七変化を思い出す。
心が変われば、態度が変わる。態度が変われば、行動が変わる。行動が変われば、習慣が変わる。習慣が変われば、人格が変わる。人格が変われば、運命が変わる。運命が変われば、人生が変わる・・・
ピアニスト、グレン・グールドの記録自体は、不変なのだが、鑑賞主体の盤友人は、確かに、変化しているのだ。ちくま学芸文庫2001年発行九刷を手にして、一層の深化を感じている。
レコードのクレジット、たとえば、バッハ、ゴールドヘルク変奏曲、デビューアルバム1955年6月録音のもの、そして、晩年1981年4、5月録音のものがある。これれらは、きわめて、重要なクレジットに違いない。
神の認識を内容とする上昇アセンシオ、その高みに達する、始めピンから尾キリへの変貌を遂げた世界が、記録されたのだ。彼は自身、ピアニストではない、なにもしないとき、ピアノを弾くと発言しているという。
これは逆説パラドックスであって、ビアノを弾かないときの精神生活と、ピアノを遊ぶときを表していて、興味深いといえる。1955年以前からグレンは生きていて1981年までの記録レコードという彼の人生の、一体化を主張している発言である。
歌わなければ、演奏もわるくなる、という彼の発言は、自己正当化でもあり、真実を衝いている。
彼のハミングは、レコーディング・エンジニアには納得のいかない、不純物ではあろうけれど、鑑賞者である、盤友人には、とても大切な情報である。ある人にはいやな匂いでも、グレンにとっては、発信であって、それは邪魔にならないだろう。
オーディオの目的は、記録再生を深めることにほかならない。それは、グレンとの、魂の触れ合いである。