千曲万来余話その163「倍音を聴かせるリヒテルの弾くシューベルト」
レコードを聴く悦びに、倍音ハーモニックスというキーワートがある。
アナログ録音が、もっとも得意とするところで、作曲家の楽譜から、そこのところを聴かせるのが名ピアニストの所以である。
ソヴィエト出身に、偉大なピアニストの系列がある。スヴィヤトスラフ・リヒテル、エミール・ギレリス、グレゴール・ソフロツキ、レフ・オボーリン、・・・ヴラデミール・アシュケナージ彼は、現役でオーケストラ指揮活動もしている。ワレリー・アファナシエフ彼も同じく。
ビッグネイムとして、女流マリア・ユージナがいる。彼女1970年11月24日の葬儀に、リヒテルは演奏しているという記録がある。翌1971年、72年にシューヘルトを録音した。
1971年9月26日、ザルツブルグで、シューベルト即興曲第2番ドイッチュ番号935を録音している。
これをドイツプレス、オイロティスクLPレコードで再生した。
第19番D958に続き、即興曲第2番変イ長調作品142が入っている。始め音量が小さく、不具合発生かなと思ったとたん、ガツンきたから、そうではなかった。
彼の解釈によると、シューベルトのピアノ音楽、音量差ピアノとフォルテが印象的であるしその上気付かされる。
リヒテルは、楽譜の読み込みから、ピアノという楽器から倍音を追求しているということである。
特に第2集第2番D935では明確だ。倍音を聴かせてくれている。開始から、そうである。
左手の和音の中から、右手の旋律の下で、倍音が鳴っている。シューベルトの楽譜から、リヒテルは注意深く演奏して、録音している。これは、彼の芸術に深まりを見せた結果と思われる。
確かに、アルフレッド・ブレンデル1974年やルドルフ・ゼルキン1979年にも名演奏は録音されている。
しかし、リヒテルの録音はこのことが、顕著な傾向である。
一筋縄ではいかない、シューベルトのロマン的ピアノ世界の地平が広がっていく。これは、追憶の世界、男S氏ならではの孤高の音楽として、とびっきりのご馳走だ。
ウィルヘルム・バックハウスは、この曲を白鳥の歌として演奏していた。1969年6月28日オーストリアの、ケルンテン高地オシアッハ湖畔、シュティツト教会にて最後の彼の演奏会ライヴ録音。