千曲万来余話その157「指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットと、伝統回帰論」
江別市にある、えぽあホールで開催された市民器楽祭に足を運んだ。
その中で、筒井裕子さんの弾くヴァイオリンの音色に、心を打たれた。ありがとう!音楽を愛し、ひたすら作品に取り組む彼女の姿に落涙を覚えた。彼女は、幼いときからのブラインド、目の不自由な方だ。それを克服して、バッハの無伴奏ソナタ第一番からアダージョを演奏、モーツァルトのメヌエット、そして、チャルダーシュを披露していた。音色が美しく、楽器の鳴りが豊かで、ホールいっぱいに響いて、響きの方向性が感じられるステージだ。
彼女の姿は、人々の温かい拍手に包まれていた。それのみならず、他の演奏団体の緊張感有る演奏にまで高めていたようだ。弦楽アンサウブル、リコーダーアンサンブルやまばと、酪農学園吹奏楽部、江別吹奏楽団、それぞれに生命力溢れる演奏だったのは、彼女のヴァイオリン音色のおかげだったのかも知れない。あっという間に三時間がすぎて秋のマチネーコンサートは、ハネた。
その日の夜にEテレで、クラシック音楽館、NHK交響楽団の演奏によるベートーヴェンの第一交響曲ハ長調作品21、そして英雄エロイカ交響曲を視聴した。指揮者ブロムシュテットは、英雄という名前は、ナポレオン・ボナパルトのことではなくて良かった、それは一人ひとりのことだからと発言していた。さらに、楽譜の問題に触れて、第二楽章に、以前アクセント表記であったのが、実はデクレシェンド、だんだん弱くではないかということになり、記号は変更されたということだった。これはどういうことかというと、使用される楽譜は、作曲者の意向に対して正確かという検証が進んでいるということ、現行の使用楽譜が完全ではないということである。
映像は、1983年のものも合わせて、放送されていた。当時の熱気は確かに伝わるに充分であった。ボウイングも力強く、演奏者の頭髪、黒々としていて若い奏者が元気に演奏していた。オーボエトップで小島葉子さん、第二トランペットの祖堅方正さんなど力いっぱい吹奏していた。さらにクラリネット、浜中浩一・・・
オーケストラの配置は、チェロが指揮者右手側、2015年9月の演奏では、第二ヴァイオリンが配置されている。
そのことにより、コントラバスは、指揮者左手側配置、ティンパニーの低い方は奏者の右手側。伝統回帰に違いない。その音楽的な違いは、どこにあるのか?
コントラバスは音響の中心で、だから、ホルンは下手配置、とにかく第一ヴァイオリンのすぐ後ろにチェロが配置されているためにリズムの始めにくる音は推進力が男性的な音楽になる。必然としてのヴァイオリン両翼配置だ。